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全ての生物に、そこに生息するに至る歴史が在る。「日本の動物はいつどこからきたのか 動物地理学の挑戦 (岩波科学ライブラリー)」  

日本の動物はいつどこからきたのか 動物地理学の挑戦 (岩波科学ライブラリー)
京都大学総合博物館



川本芳のミトコンドリアの遺伝子の研究から、ニホンザルには大きく二つのグループがみつかり、東と西のサルが区別できた。岡山県と兵庫県あたりが境界になっている。(略)おそらく、最後の氷期がやってきたとき、本州の山は寒冷化ですみにくい森にかわり、祖先は西日本に追いやられたようである。氷期が終わり温暖な気候がもどってから、再び東北地方まで分布を広げたと予想されている。
ニホンジカの遺伝子でもサルと似た特徴がみつかっている。(略)
この場合も境界は岡山県と兵庫県あたりである。しかし、シカは北海道までいるがサルは北海道にはいない。

(p43)



各所に生息する生物の形態・生態は、その場所の歴史と密接な関係を持つ。
当り前だが、その生物の移動能力を超える場所には通常いけないし、
餌がなければ生息できない。

その制約を環境という。
だが、この環境は長い地史においてはダイナミックに変化する。
また同時代においても、生物によっては海流や風といった局所的な「環境」により、
その移動・生息能力を超える時がある。

だがいずれにしても、
今の自然状態における生物分布は、自然環境の変遷とリンクしている。

とすれば、今の生物分布を丹念に読み解くことは、
すなわち自然環境の変遷を読み解くことになる。

(逆に、自然環境の変遷を丹念に読み解けば、
今の生物分布が読み解けることになる。)

こうした試みが、生物地理学だ。

本書は日本列島(琉球列島・八重山諸島も含む)を舞台として、
各生物が、「なぜここに在るか」を明らかにしようとするもの。

各章の執筆者が異なるが、それぞれの研究者が、
執筆時点の到達点をダイジェストで語るというものになっている。

目次のとおり、取り上げている動物は多岐にわたる。
琉球列島のカエルはよくみる話題だが、
伊豆諸島と伊豆半島にのみ生息するオカダトカゲ、
小型サンショウウオの分化、
ビワコオオナマズがそこに生息している理由など、興味深いテーマが多い。

また当たり前に在るアサリやハマグリについても、
それがいつ、いかなる環境要因により日本列島に生息してきたか、という視点も楽しい。

本書は2005年の京都大学博物館の企画展、
「日本の動物はいつどこからきたのか 動物地理学の挑戦」にあわせて出版されたものだが、
その「動物地理学の紹介」という刊行企図は、十分に達成されていると言えるだろう。

ただ残念なのは、本書がそこに留まっていることだ。
本書がいわば導入部であることは、その刊行経緯からして明らかである。
とすれば、
本書から展開する先についても、紹介するべきだろう。
個々の章につい極めて興味深いものの、もっと詳しく知りたいと思った時、
その参考文献が全く紹介されていないのは、片手落ちと感じるところ。

もちろん研究範囲がマイナーで(例えば海浜性ハンミョウや湿地のネクイハムシ)、
展開すべき文献もない、ということもあるだろうが、
テーマと内容が良いだけに、勿体ないというべきか。
(ただ、各章の執筆者が明記されているので、その名で検索すればいくつか文献はヒットする。)

ただその欠点を差し引いても、本書は一読に値するだろう。
こうした「生物から歴史を読み解く」ことの面白さを伝えるには最適だ。

なお、逆に言えば、
人為的な絶滅や外来種導入が、こうした試みの可能性を無自覚に破壊しているということも、
本書は教えてくれるだろう。


※なお、僕もいずれ読みたいと思っている、
本書から発展するだろう類書を下に紹介しておく。

【目次】
1 謎解きとしての動物地理学
2 島嶼が多様性を花開かせる
  小さな島々に閉じこめられたヘビたち
  琉球列島のカエルたちの多様な進化
  伊豆半島に乗ってきたトカゲ
3 列島内での分化と動物たちの移動
  小型サンショウウオはどう分化したか
  ケモノたちはどのように定着したか
  ビワコオオナマズはどこからきたのか
4 昆虫の起源と多様性
  海浜性ハンミョウのすみわけと食いわけ
  湿地の宝石、ネクイハムシ
5 海流が生み出した謎
  黒潮がさえぎるメジナ類の分布
  アサリやハマグリはいつ日本に現れたか
6 絶滅した動物たち
  ニホンオオカミはなぜ消えたのか
  小笠原諸島の動物は生き残れるか
7 動物地理学の未来
















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