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ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

ある日、キャパシティを超えた。「捨てる女 (朝日文庫)」  

捨てる女 (朝日文庫)
内澤旬子



気がついたら、部屋も暮らしもなにもかもが、カオスになってしまった。
(p20)



正直、内澤旬子氏という名に覚えは無かったが、
飼い喰い――三匹の豚とわたし」(未読)の著者、と言われると、
ああ、と膝を打つ。話題になったものなあ。

本書は、それ以降の話。
内澤氏が乳癌になり、それが何のトリガーを引いたのか、
突如として「モノが溢れている状況」に耐えがたさを感じ始める。

食品、服、惰性的にある家具、仕事のための資料となる本、
趣味(というか果たせぬライフワークかな)である製本のための材料、
それらの見本となる世界各国の本。

これらの存在が次々と目に付きだし気になりだし、
ばんばん手放していく過程の記録が、本書である。

いわゆる断捨離本的に視えるが、実のところはちょっと違う。
食品にしても、「何とか消費して」ゼロにすることを目指すし、
東日本大震災を経て、電気を使うのが嫌だ―と行って炊飯器を手放すが、
冷静に読むとパソコンは以降も使っている。

漫画家・中崎タツヤ氏の「捨てる生活」は「もたない男 (新潮文庫)」(レビューはこちら)に詳しいが、
中崎氏のような片っ端から捨てる(例えば、読んでいる本も読み終わった部分は破って捨てる)潔さや徹底性は、実は著者には無い。

実際にところは分からないが、内澤氏の「捨てたい」という衝動は、
乳癌を経たことによって「管理できるモノ」のキャパシティが劇的に減少した、ということなのではないだろうか。

おそらくヒトには、それぞれ「管理できるモノ」のキャパシティが在る。
多くの場合、そのキャパシティを超えれば、モノは溜まる一方だ。
それが有価値なモノであればコレクターと呼ばれるし、
本であれば蔵書家と呼ばれ、
他者から見てゴミであれば、ゴミ屋敷と呼ばれるに過ぎない。

ただ内澤氏の場合、そのキャパシティーを超えることに対して防衛線が働き、
「捨てる」ことで対応しようとしたのではないだろうか。
本書は、そうした葛藤の記録としてなっている。

というのは、実はあとがきで、
「それにしても、どうかしていた。(略)
あきらかに捨てすぎてしまった。」
と書いているのだ。
これも、病からの回復(心身ともに)により、キャパシティが回復したことに所以するのではないだろうか。

その意味で、同じ「捨てる」という行為であっても、
内澤氏と中崎タツヤ氏は、全く異なる志向なのである。

そう考えれば、実は教訓が学べそうだ。

一、周囲からモノを減らしたいと思った時は、まず自身の健康を疑うこと。
一、健康であれば、素直に捨てるべし。
一、病であれば、少なくとも「今まで大事にしていたもの」は本当に捨てず、
  自分の管理範囲から除外するに留めておくこと。

これが正しいかどうかは分からないので、自己責任で。

なお、内澤氏の文体と、かなり開けっぴろげな(賞賛)内容に対しては、
好みというか、それこそ受け入れられるキャパシティが、人によって異なると思われる。
女性に幻想を抱いているような人は読むことをお勧めしない。
ただ文庫版あとがきが追加されているので、読むなら文庫がお勧めである。

あと、作中に、高野秀行氏の腰痛の本に関する言及がある。
腰痛探検家 (集英社文庫)」(レビューはこちら)のコトなので、興味がある方はどうぞ。

【目次】
Level.1――Start――
・職種と荷物
・カタストロフ襲来
・冷蔵庫の聖域
・家具の圧迫
・靴とも、さらば
・さっくり捨てろ
・まずいだけでは捨てられぬ
・夏に生まれた生態系
・腐れ縁チェア
・三度目の死に支度

Level.2――Fire――
・捨てまくり着火点
・ゴミに、歴史あり
・豚とゴミ
・シロアリ退散
・糞尿を浄化せよ
・ヘルハウスの清算とその後
・豚のいたスナック
・素直な見せ合い

Level.3――Storm――
・蒐集の血統
・二〇一一年三月十一日
・さらばトイレットペーパー
・アーフターベの極意
・一日一枚ハンドタオル

Level.4――Festival――
・本が減らない!
・本収納の永い旅
・紙と製本のボディブロー
・さらば「お宝本」
・イラスト比丘尼、如是説法
・言葉にできな
・この一冊だけは
・恥の展示
・恥の値段
・恥のあとさき
・人生折り返し包丁
・そして多肉が残った
・さらば捨て暮らし
あとがき
文庫版あとがき







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