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ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

その症状は、病原体にとってとのような「意味」を持つのか?「病原体はどう生きているか (ちくま新書)」  

病原体はどう生きているか (ちくま新書)
益田 昭吾


結局、コレラにおける下痢便はコレラ菌にとって栄養を与えてくれる環境であり、外へ運び出してくれる媒体でもあるということになる。(略)「コレラという病気にかかると、激しい下痢が起きて患者は脱水状態で死亡する」という記述の意味が少し変わったように思えないだろうか。(p85,88)



感染症に関する本は多々ある。
だが、「感染症」という病気という視点があるゆえに、それは人間の視点を離れることはできない。

本書は様々な病原体について、それらが引き起こす諸症状が、
その「病原体にとって」いかなる意味があるのかを読み解くもの。

病原体(主に細菌)を病原「微生物」と見て、その生存戦略を考えるという視点は、
本書独特のものである。

例えば冒頭に引いたコレラ菌。
これに感染すると激烈な下痢により脱水症状を起こし、死に至ることもあるというのが、
最も簡単な「感染症」としての説明である。

だがコレラ菌が増殖する「手段」として、
まずコレラ菌が出す毒素によって小腸の機能が損なわれ、
本来なら腸管から取り込まれる筈の塩分や水分が、
逆にコレラ菌がいる腸管に逆流する。
これは、コレラ菌が増殖するための環境を整えていると見ることが可能だ。

そして、腸管の容量を超えれば下痢便として排出され、
排出された下痢便は河川や沿岸域に流れ出す。

そして、実はそもそもコレラ菌は海洋性細菌であることから、
排出された場は、コレラ菌が自然界で在るべき環境そのものであり、
次の増殖先―ヒトへの感染までを生き延びることが可能となる。

すなわち人間に起きる症状は、全てコレラ菌の毒素が偶然作用した結果ではなく、
まさにコレラ菌によって引き起こされているということが可能だ。

この視点を援用すれば、破傷風菌のような土壌性細菌や、
芽胞という形態により土壌中で長期間存在できる炭疽菌では、
むしろヒトに感染し、速やかに殺し、地面に接触した増殖し、
土壌中に戻ることが生存戦略で重要になる。

ごく少量の破傷風毒素でも症状が引き起こされるという点も、
「速やかに殺す」という目的合致しているといえるだろう。


本書では、この他様々な病原体について、それぞれが引き起こす症状が、
どのような生存戦略ゆえのものかを説明していく。

ただ上記のコレラや破傷風菌のように明快な事例もあれば、
やや解釈に難渋しているような事例もある。

それは筆者の能力等に帰するものではなく、
そもそも病原体に関わらず、
様々な生物の生存戦略を理解するうえで、共通の困難性によるものだろう。

それを差し引いて、新たな視点を提供してくれるという点で、
本書は興味深い一冊である。


【目次】
序章 病原体はどう理解されてきたか
第1章 病原微生物の生態
第2章 病原体への対応
第3章 いくつかの病原細菌
第4章 細菌以外の病原体
第5章 病原微生物を通して考える
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category: 感染症

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