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ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

稀代のストーリーテラーが、ホラー映画を語り尽す。「荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論 (集英社新書)」  

荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論 (集英社新書)
荒木 飛呂彦



恐怖映画は一見すると、暗くて不幸そうで、下品で、そのうえ変な音楽まで流れていてレベルが低そうであり、異様な雰囲気さえ持っています。しかしすぐれた恐怖映画は、きちんと観てみると精神の暗部をテーマにしていて挑戦的な映画ともいえ、どの場面もカット編集や変更ができないほど脚本や演出も完璧なまでに計算構築されています。そして本当にすぐれた作品は何よりも―これが大事な要素なのですけれども―「癒される」のです。
(p226)


好みはあるだろうが、「ジョジョの奇妙な冒険」(リンク先はお気に入りの第3部セット)が、
日本漫画史に残る作品であることは間違いない。

その作者・荒木氏が、氏の愛するホラー映画について(執筆時点で)語り尽したのが本書である。

実のところ、ホラー映画というと、B級映画の代表とも思われがちだ。
だが振り返って考えてみると、
TVの映画番組が今のような去年の邦画、最新作のタイアップ(前作)、ハリポタとジブリのローテーションになる前、
すなわち80年代の金曜ロードショーや日曜洋画劇場が元気だったころには、
ジョーズ、13日の金曜日、オーメンやエイリアン・エクソシストといったホラー映画もよく放映されていた。

つまり当時は、明らかに「家族で見る映画」の一ジャンルとして確立していたのだ。

おそらくは、ホラー映画が全てB級なのではない。
CGの進歩に伴い、ホラー以外の映画―特にSFとアクション系―が盛んになる一方、
過去の優れたホラー作品の二匹目のドジョウを狙い粗製乱造されたホラーが増加し、B級に堕ちたのだろう。

荒木氏の想いも、たぶんそこにある。

本書はホラー映画は単なる恐怖をあおるスプラッタ映画ではなく、
優れた作品は人々が潜在的に描く「恐怖」を具体化し、それを客観化することで「癒す」力も持つということを解説するための、ガイドブックである。

そのため真っ向からホラー映画に向き合っており、
ジャンル分け、各ジャンルが狙う「恐怖」、各ジャンルの作品史、
そしてそれぞけのジャンルを得意とする監督の解説などが、
荒木氏というエンターテイメントのプロの視点から語られる。

むしろ、贅沢な本と言って良い。

取り上げられている作品は100本。
巻末には取り上げた作品を年代順に並べた表もあり、この一冊で手引きとしては十分。

また例えば、ゾンビ映画が「無個性」の恐怖であるという指摘(だからこそゾンビにリーダーが生じると違和感がある)や、「田舎に行ったら襲われた」系ホラーでは殺人鬼はまだ人間であったけれど、
ビザール殺人鬼映画=ジェイソンやフレディでは殺人鬼が超自然的な能力を獲得し、
「超自然的な能力者が、どうしようもない人間を殺していく」という、
実はアンチヒーロー的な側面を持っているという指摘など、
ホラー映画の変遷は時代の要請でもあったことを窺わせる分析など、
文化史としても楽しめるだろう。

さらに、各ジャンルのトップを荒木氏が挙げているが、
それらはエイリアンや13日の金曜日等々有名どころ。
ただ、それが「なぜトップなのか」という氏の解説を読めば、
各作品がホラー映画としていかにエポックメイキングであり、
また「映画」として完成されているかも知ることが出来る。

全てが全て、氏の好みと一致することもないだろうし、その必要もないが、
「ホラー映画」を楽しみたい方は、一度は読んでおいて損はないだろう。

マニアックな作品も多数紹介されているが、
その中から自分が見た事がある作品を見つけて氏の感想を読むという楽しみ方もある。

それにしても、エイリアンとか13金とかフレディとか遊星からの物体Xとか、
以前はTVで放映されていた「名作」に、
今の子供たちは日常で触れる機会もない。

年齢制限や色々な配慮はもちろん必要なのだが、
(家族で観ているのに、濃厚なラブシーンになったときのが気まずさといったら…)
やっぱり有名な作品は、相応の年代になったら必ず出会っておく必要があるだろう。
(それを観る/観ないは、個々人の判断である。)
それらは、文化を構築する「スタンダード(基準)」なのだから。


【目次】
まえがき モダンホラー映画への招待
第1章 ゾンビ映画
第2章 「田舎に行ったら襲われた」系ホラー
第3章 ビザール殺人鬼映画
第4章 スティーブン・キング・オブ・ホラー
第5章 SFホラー映画
第6章 アニマルホラー
第7章 構築系ホラー
第8章 不条理ホラー
第9章 悪魔・怨霊ホラー
第10章 ホラー・オン・ボーダー
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