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ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

静かだが熱い情熱が、人類史を解き明かす。「ネアンデルタール人は私たちと交配した」  

ネアンデルタール人は私たちと交配した
スヴァンテ・ペーボ



人類の知の歴史は様々な画期的発見の積み重ねだが、
中でも1953年、ワトソンとクリックによるDNAの二重らせん構造の決定は、その最たるものだ。
遺伝というメカニズムを理解するために必須であるだけではない。
DNAという武器を手に入れることで、様々な分野の研究においても、劇的な変化が生じている。

本書は、近年テレビ等でも紹介されている学説、
人類(ホモ・サピエンス)とネアンデルタール人が交配していたという事実を、
DNA研究により明らかにする過程を、その研究の中心人物が記したものだ。

「ネアンデルタール人との交配」というテーマだけなら、既に普及しつつある知識である。
だが恐らく、それと同じ程度に本書の著者であるスヴァンテ・ペーボの研究姿勢、
努力と工夫、そして信念は知られて良いだろう。

言うまでもなく、化石からDNAを抽出するというアイデア自体は、
ジュラシック・パークで世界的に知られている。

だが実際に、化石中からDNAを抽出・復元するということは、
極めて困難かつデリケートな研究手法なのである。

DNAは、どのようなサイズに断片化するのか。
そして、残っているDNAにおいても、どのような経年変化が生じているのか。
断片から復元したものを、いかなる方法で元の1本のDNAに復元するのか。
まずは、こうした技術的な課題が有る。

そして何より問題なのが、コンタミネーション(試料汚染、以下コンタミと略す)の問題だ。
発掘された化石は、もちろん表面には多種多様なバクテリア等が付着している。そのDNA。
そして、発掘者、保管者のDNA。
化石抽出する際の、研究者自身のDNA。
これらが、極めて微量にしか残っていない化石人骨のDNAに混ざれば、
復元される大部分は、こうしたコンタミ由来のDNAとなる。

特にネアンデルタール人のように、人類との類縁関係をDNAから探ろうとしている場合において、
ヒトのDNAが混ざることは、最大の問題となる。

ところがDNA技術の進歩に伴い、世界各地でコンタミへの配慮に欠けた「化石からのDNA復元」という研究成果の報告が相次ぐ。

こうした中で、30年にわたって着実に化石からのDNA抽出技術を向上させ、
そしてその作業のためのクリーンルームを設け、
さらに復元結果を難渋にもチェックするシステムを構築しながら、
ネアンデルタール人のDNAを復元したのが、本書の著者である。

だからこそ、
「ネアンデルタール人は人類とは別種であり祖先ではないが、
ネアンデルタール人と人類が交配した事実はDNAから確認できる」という著者が報告した研究結果は、
極めて高い信頼性と説得力を持っていたのだ。

そして同時に、「非アフリカ人」はネアンデルタール人由来のDNAを持つ一方、
アフリカ人は持たないという事実を明らかにし、ネアンデルタール人との交配が出アフリカ後であり、かつ、
おそらく世界的に人類が分散する前(おそらく中東)であっただろうという、
ピンポイントの人類史の解明も果たす。

誤解を招きそうだが、本書は、人類とネアンデルタール人の交配について記した解説書ではない。
化石人骨からのDNA抽出という、今後もっと発展するだろう研究分野を開発・発展させた著者による「研究史」である。
そうした視点で読めば、極めて良質な知的興奮が得られるだろう。

なお、ネアンデルタール人の試料サンプルを探す過程で、著者の協力研究者が、
ネアンデルタール人が最初に発見されたものの、今は失われてしまったネアンデルタール渓谷において、
その発掘地点を特定して残っていた化石人骨を発見するという話題に触れられている。

この話だけでも、実はエキサイティングなストーリが在る。
詳しくは、「ネアンデルタール人 奇跡の再発見 (朝日選書)」(レビューはこちら) に詳しいが、
本書と同時期に読めば、ネアンデルタール人がもっと身近に感じられるだろう。

また、ネアンデルタール人の絶滅についても諸説あるが、
ヒトとイヌがネアンデルタール人を絶滅させた」(レビューはこちら)が興味深い。
これもあわせて読むことをお勧めする。



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