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ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

エキサイティングだからこそ、冷静な読みが必要な一冊。「下山事件完全版―最後の証言」  

下山事件完全版―最後の証言 (祥伝社文庫 し 8-3)
柴田 哲孝



平成も終わろうかという時代になって、下山事件本を読んでいる。
「下山事件」とは、1949年(昭和24年)7月5日に国鉄総裁・下山定則が出勤途中に行方不明になり、
翌7月6日未明に轢死体として発見された事件である。

当時、国鉄は大規模な人員整理を手掛けている最中。
下山総裁はその首切りのために総裁になったようなものであり、事件前日には3万700人の解雇通告を出している。

このため、自殺・他殺のいずれにも理由が成立すること、

現場で遺体を検分した八十島信之助監察医は自殺と判断した一方、
東京大学法医学教室主任の古畑種基教授は、遺体の切断面に生活反応が認められず死後轢断と判定したこと、

警察でも、自殺とみる捜査一課と他殺とみる捜査二課があり、結論がでないまま迷宮入りしたことなどから、
自殺説・他殺説が入り乱れる状況となっている。

他殺説としては、轢断地点より前に続く「血の道」を発見した、当時の新聞記者・矢田 喜美雄による「謀殺 下山事件 (祥伝社文庫)」、
GHQの関与と推測した松本清張の「新装版 日本の黒い霧 (上) (文春文庫)」などがあり、
その延長上にあるのが本書である。

本書の肝は、著者の祖父が務めていた「亜細亜産業」が鍵を握っている、という論。
亜細亜産業とは本書によれば、GHQ内のG2という組織とも関係していた、
諜報・防諜などを行う「矢板機関」の隠れ蓑である。

その関係者の写真等も口絵として収録されている一方、
これまでの「下山本」―特に他殺論―の問題点等も指摘し、
いわば「下山事件他殺論」の(現時点での)仕上げを意識しているような一冊である。

なるほど戦後の占領下の日本にはこんな組織が暗躍していたのか、とか、
これなら下山事件も他殺であろう、と納得する一冊となっている。

ただし、疑念もある。
例えば、亜細亜産業の存在は確実ではある(だろう)ものの、
その裏の顔については、その論拠を自身の身内と、当時の代表者・矢板玄の証言だけに拠っていること。
この点を、裏機関だから当然だ、とみるか、おかしいとみるかは、読者の姿勢によって変わるだろう。

このように様々な点について、読者は自身で判断しながら読む必要がある。

というのも、下山事件については、
どうしても「他殺論」がインパクトが強くメジャーであるため、
その論のための牽強付会が見過ごされがちであるのだ。

例えば、轢断位置よりも前方にあった血痕、いわゆる「血の道」が、
他殺論では遺体運搬の論拠となっている。

しかしながら、当時は列車から糞尿等が垂れ流しであったため、
女性の経血である可能性があること、
また同所では自殺もあり、その古い血が検出された可能性も指摘されている。
さらに、「血の道」発見に用いられたルミノールは、古い血でも反応すること、
また轢断地点から前方に、当時矢田記者らが入手できた量の範囲で調査されているだけであり、
実際に検出されたものが全てとは言い難い。
また、他の路線等での比較調査もなく、この現場特有の状況なのか否かも不明である。
また血液型にしても、下山氏のAMQ型といくつか一致したとされているが、
そもそもMN式およびQ式の血液型鑑定がABO式のそれに比べて困難であり(しかも昭和20年代である)、
そもそも下山氏のAMQ型というのも推測である。

このように、他殺論にとって不都合な事実は省略されているのが、
他殺論の諸本で指摘されている問題点である。

本書も一仮説として読む分には良いが、
この一冊や、前出の他殺論だけを読んで下山事件を理解するのは、危険だろう。

本書のように自殺論・他殺論が混在する事件については、
あくまで、自身で考える材料として、関係本をバランスよく読む必要があるだろう。

とはいえ、実のところ自殺論は、その内容が地味なために商業ベースに乗りづらく、
そもそも入手が困難である。

しかし、良質な解説サイトも公開されている。
全研究下山事件 

本書などの他殺論を読むときには、
あわせてこうしたサイトも確認しておきたい。



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category: 事件・事故

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