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ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

人類史上最悪のインフルエンザ・ウイルスは、どこに在る。「四千万人を殺した戦慄のインフルエンザの正体を追う (文春文庫)」  

四千万人を殺した戦慄のインフルエンザの正体を追う (文春文庫)
ピート デイヴィス



様々な感染症のパンデミックが懸念されるが、
やはり最も馴染み深いのはインフルエンザだろう。

最近は通常レベルと体感されるインフルエンザばかりだが、
近くは、2009年に新型インフルエンザが世界的に流行している。

当時、我が家ではまず息子が罹り、息子が治ったと思ったら娘が感染。
まだ小学生だった娘の着替えを手伝っていて、
ふと気が付くと自身が39度。
翌日には妻も発症と、パンデミックとはこういうことか、と痛感した。
2009年の新型インフルエンザの死亡率は当初恐れられた程ではなかったから良かったものの、
これが1918-19年に世界で4000万人以上の死者を出したスペイン風邪と同様であれば、
我が家は全滅だっただろう。

スペイン風邪の猛威については、様々なインフルエンザ関連の文献に記載されている。
例えば日本の状況については 「日本を襲ったスペイン・インフルエンザ―人類とウイルスの第一次世界戦争」(レビューはこちら)が詳しいが、まさにバタバタと斃れるといった状態であったようだ。

そこまで人類を追い詰めたスペイン風邪とは、そもそも、如何なるウイルスだったのか。

実のところ、インフルエンザウイルスが分離される以前であったこともあり、
ウイルスそのものに対する知見は残っていない。

そのため、インフルエンザの危険性が見えていながらも、
最悪の事例については直接的な研究ができない状況にあった。

そこで思いつくのが、「当時のウイルスが何処かに残っていないか」ということである。

ただ、それは容易な話ではない。
時の経過によりウイルスの遺伝子自体が損傷することもあるが、
そもそもインフルエンザという感染症においては、
インフルエンザウイルスの量は感染後24~48時間にピークに達するが、
それ以降では急速に減少するためだ。
そのため、それ以降に合併症で亡くなった人の細胞には、
そもそもインフルエンザは殆ど含まれていない。

そうすると、感染後、極めて短期間に亡くなった患者を探し出し、
その感染組織の細胞が、何らかの形で数十年以上、良好に保存されている必要がある。

当時の死者が多かったとはいえ、そうした事例を見つけ出すことは困難だろう。

本書は、その困難に挑み、ついにスペイン風邪のウイルスを再発見するまでのドキュメントである。
チャレンジされた手法はいくつかある。

例えば本書で最初に紹介されるのは、
北極圏にあるスバールバル諸島において、当時インフルエンザで急死した7名の遺体が、
永久凍土層に埋葬されているらしい、という調査結果に基づき、
同地を発掘してみるというものだ。

永久凍土層に在るというのがポイントで、こうした凍結遺体には、
良好なウイルスが残っているだろうという推測が成り立つ。

そこで実際にチャレンジしてみるのだが、詳細は伏せるとして、
このプロジェクトは失敗に終わる。

それどころか、そのプロジェクトと並行してなされていた様々な試みから、
遂にスペイン風邪ウイルスが再発見されるのだ。

その経緯は、研究者間の確執や競争も如実に表れていて、
なかなか生臭い部分もある。
だが、スペイン風邪ウイルスという、人類史に残る疫病の正体を探るのであるから、
こうした争いも当然だろう。

本書では、こうした再発見に至るドラマを、じっくりと追体験することが可能となる。

スペイン風邪そのもの、またインフルエンザそのものや、
今後の感染症対策については、様々な本が刊行されている。
(本ブログでも何冊か紹介している。掲載本の一覧は、こちらや、検索窓から「インフルエンザ」で検索していただきたい。)

だが、現在のインフルエンザ研究の根幹の一部である、
スペイン風邪ウイルスの研究については、なかなか刊行されている本は少ない。
その中で、スペイン風邪ウイルスの再発見モノとしては、
おそらく本書が数少ない刊行書であり、容易に入手できるものである。


【目次】
第1章 香港でのちょっとしたできごと
第2章 新種の疫病
第3章 いのちのきわに
第4章 凍てつく海岸
第5章 ストレスは極限に
第6章 敬意と厳粛さ
第7章 生命のことば
第8章 三〇〇〇ドルとシャベル
第9章 おそろしく屈辱的なもの
第10章 プラグ・ドラッグ



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category: 感染症

thread: 読んだ本の紹介 - janre: 本・雑誌

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コメント

コメントありがとうございます。


以前の新型インフルエンザは致死率が当初恐れられていたほどではなかったため、
「新型インフルエンザ恐れるに足らず」という悪い印象が残ったのではと危惧しています。
我が家は息子、そして娘、娘の看病中に僕も妻も発症しました。
致死率が高かったらと考えると、ぞっします。
インフルエンザ等の感染症の危険性については、
平時にもっと知られておくべきと痛感しています。

BIRD READER #- | URL
2018/11/14 19:30 | edit

こんばんは。
インフルエンザに代表されるパンデミックの怖さを初めて知ったのは小松左京のSF「復活の日」でしたが、現実でもやはり様々な追跡が行われているのですね。世間ではまだまだインフルエンザが風邪と同じようにみなされて甘く見られているので、こうした本ももっともっと注目されてほしいものです。

へろん #kYK71OPk | URL
2018/11/13 23:43 | edit

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