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ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

質問する時は、自分で調べてからにしよう。「はい、こちら国立天文台―星空の電話相談室 (新潮文庫)」  

はい、こちら国立天文台―星空の電話相談室 (新潮文庫)
長沢 工



国立天文台https://www.nao.ac.jp/は、日本における天文学の中枢を担う組織だ。
スーパー望遠鏡「アルマ」の創造者たち」(レビューはこちら)に詳しいが、日本各地はもとより、世界各地にも研究・観測施設も持つ。
ミリ波天文学や重力望遠鏡など、その最先端の観測技術から得られた情報は、
宇宙の謎を解明する手掛かりとして、また時には新たな宇宙の謎を示すものとして、僕らを驚かせてくれる。

こうした最先端の組織ながら、国立天文台として開かれた組織であること、
そしてごくごくベーシックな天文学―太陽や月、星空は日常生活に密着しているゆえに、
一般人からの問い合わせも多いようだ。

本書はその窓口、国立天文台広報普及室に勤務している著者が、
広報室の日常を記したもの。

帯には「見上げれば、ほら、星空が輝いているよ」とロマン溢れる惹句が踊っているが、
正直に言えば、最先端の天文学や星空のロマンなどは、ほぼ盛り込まれていない。

本書に描かれているのは、もっと基本的な疑問や、
小学生からの質問電話、マスコミからの問い合わせから始まり、
日の出時刻の問い合わせなど、「自分で調べればいいのに」といったレベルの質問、
そして大学生がレポートのために、また企業がその営利活動のために行うような、
明らかに手間を省くための質問に至るまで、
様々な質問に日夜奮闘する広報室の姿だ。

そして著者は、東京大学地震研究所を退官したのちに広報室に勤務。
その立場から、国天文台と外部との関係を冷静にみることができるのだろう、
本書も極めて正直な所感が綴られている。いや、スカッとするほどだ。

子どもたちからの問い合わせや、先生からの問い合わせに―いわば真っ当な質問に真摯に対応し、
前述のような「手間を省く質問」には、広報室としてはきちんと対応するものの、
「こんなことで良いのか」と苦言を呈する。

おそらく多くの人は「質問する側」にしか立たないし、自身が質問することは滅多にない。
だからついつい手間を省いてしまうが、
そうした甘えが、どれぼと回答者に負担をかけているかを、本書を通じて学ぶことができる筈だ。
(まあ、何も考えずに質問しまくる層は、そもそもこんな本は読まない。)

本書に出てくるトンデモ質問者を他山の石として、
専門組織・専門家に対する質問を、もっと建設的なものにしていきたいものである。

それにしても、本書はまだ、電話という手段が一般的だった時代の話。
おそらく現在は、さらにメールでも「もっと調べて・考えて質問すればいいいのに」といった質問が、
多数寄せられているのだろう。いやはや、お疲れ様ですと言うほかない。

ところで本書には、慧眼と言うだろう、サマータイムに対する問題点が綴られている。

私はエネルギー節約に反対するものではない。しかし、時刻に二重性をもたらすかもしれないという点で、夏時間の導入に危機感をもつ。夏時間を施行したとすると、何かについて記録した時刻か、ずっと後になって、夏時間による時刻か、普通時間による時刻かわからなくなるときがきっと来る。天文観測の立場で古い記録を整理する場合に、これは非常に困った問題を引き起こす。時刻の二重性を避けるためだけからも、夏時間の導入はやめてほしいものだ。p198



現在も、多くの自然科学系のデータが時々刻々積み上げられている。
サマータイムと関係なく、現在のタイムスタンプがそのまま継続されるシステムならともかく、
記録系が一度サマータイムに依存すると、
将来はそのデータを全て補正しなければならなくなる。
考えるだに、恐ろしい話である。

単純な話、「朝5時にホオジロが囀っていた」という一文だけでも、
その日がサマータイム実施期間か否か、
そして記載の時間がサマータイムの時間か否かを確認しなければ、
過去のデータの延長上に位置づけられなくなるのだ。
幸いにもオリンピックのためのサマータイムは断念されたようだが、
サマータイム導入の提案が安易になされるというのも、
やはり政治家は「時刻」という指標を動かす重大性、
それを一度動かしたら、その影響は永遠に続くことを認識していないのだろう。

【目次】
天文台の電話番
日の出、日の入り
夕暮れの木星、金星の接近
国立天文台と広報普及室
二〇〇〇年、うるう年と二一世紀
七夕祭り
電話当番の学生
春分の日
ある日の広報普及室
参考文献類
マスコミの電話取材
午前十二時?午後十二時?
サーターアンダギー
失敗
公報普及室のこれまで
電話の大混雑
月に関してのいろいろ
旧暦と年号
答えたくない質問
天文学者になりたい
苦労する質問
困った人々
天体の名前
スリランカからの手紙
理科教育と天文学
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