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ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

日本古代史のタイムカプセル。「天皇陵の謎」  

天皇陵の謎
矢澤 高太郎



いわゆる「仁徳天皇陵」、最近は「大仙陵古墳」と呼ぶが、
こうした天皇陵や陵墓参考地とされる大規模な古墳、
すなわち国家創設時期の支配者層の陵墓が現存するというのは、世界的にも珍しいことではないだろうか。

盗掘は仕方がないとしても、
多くの場合、後世の政権変動に伴い、忘れ去られるか大規模に破壊されることの方が多いだろう。
日本がそうならなかったのは、もちろん天皇制が(紆余曲折有りながらも)存続したことにある。

形骸的であった時代もあり、もちろん放置されてきた時代もある。

しかし、少なくとも明治以降の大きな時代変化、乱開発の中でも残った要因は、
天皇陵・陵墓参考地として、天皇制と不可分の存在であったことが大きい。

だが一方、国家創設時期という極めて史料の少ない時代であるからこそ、
各古墳がどの天皇の墓であるのか、という点については、多く議論が在るところだ。

本書は、読売新聞文化部の記者として20年以上考古学を追ってきた著者が、
そうした現存の大規模古墳における被葬者の同定、
すなわち陵墓指定の妥当性について、
考古学の成果から見えてきた多くの問題点を整理・追究するものだ。

日本書紀・古事記に記載された位置。
延喜式での記述。
江戸時代の山稜(古墳)研究者による追究。
埴輪等の編年や、古墳の形態の推移など、近年の考古学の成果。
こうした様々な資料を駆使し、陵墓指定の矛盾点を追及していく。

難を言えば、様々な指摘や見解が、考古学界の主流意見なのか、
著者個人の見解かが判別しがたい点があることだが、
天皇陵を巡る問題点の論点整理として、有用だろう。

ただ、考古学の成果から陵墓指定をすぐ変更すべきだというようにもとれる論が多いが、
むしろこの本自体が示すように、日々の研究成果により、専門家の見解も変化することがある。
もちろん矛盾だらけの陵墓指定そのものが問題ではあるが、
だからといって、その時々の論によってホイホイ指定を変更することも無意味だろう。

最も確実なのは、各古墳を発掘して解明し、その上で陵墓指定を行うことだろうが、
本書著者自身や、2基の未盗掘古墳を発掘した研究者(「未盗掘古墳と天皇陵古墳」(レビューはこちら)が詳しい)が語る通り、
現在の日本の考古学に対するスタンスや人的・財政状況では、
例え盗掘があったとしても、天皇陵クラスの大規模古墳を適切に発掘することは困難である。
人材育成・研究施設・保存施設の整備等を考えれば、数十年単位の国家レベルでの計画が必要だろう。

だとすれば、しかるべき時代が来るまで、
とにかく「遺すこと」が、現在の我々の責務であるといえる。

とかく、現在が最先端だから、過去に出来なかったことも行って良いと考えがちだが、
長いスパンでみれば、現在もまた、長い歴史の一部に過ぎない。
陵墓指定の矛盾は解消すべきだが、それと発掘は分けて考える必要があるだろう。

【目次】
序章 天皇陵とは何か
第1章 実在しない天皇にも墓が…
第2章 国を肇めた初代大王の墓
第3章 改造、変造、新造された御陵
第4章 暗殺された天皇のその後
第5章 空前絶後の大陵墓群
第6章 オオド大王の怒り
第7章 方墳の世界と蘇我氏
第8章 王者の陵墓は八角形
第9章 “石の女帝”の不思議な夢
終章 日本の誇りのために

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