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ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

基礎科学としての考古学。「考古学の挑戦――地中に問いかける歴史学 (岩波ジュニア新書)」  

考古学の挑戦――地中に問いかける歴史学 (岩波ジュニア新書)
阿部 芳郎



「このように求められた14C年代値は、わたしたちが使っている時計の尺度とは、必ずしも一致していない。放射性炭素年代測定の主要な前提は、①半減期が正確な値であること、②生命体は、地球上のどこでも、過去のどの時代でも一定の14C濃度を持っていること、である。実際には、どちらも成り立たない。」 p32



岩波ジュニア新書は、あなどれない。
日本恐竜探検隊 (岩波ジュニア新書)」(レビューはこちら)でもそう書いたが、
時折り、一般的な新書を遥かに超える濃密な、しかし丁寧で良質なものが刊行される。

本書もその一つ。
考古学入門という体裁ではあるが、一般的な入門書ではいう。

「知識だけでなく、最先端の研究者たちの雰囲気を伝えたい、というのが本書の目的の一つでもある。」p236


本書では、7章にわたり、様々な観点から最先端の分析手法と、そこから得られた知見が語られている。
例えば第1章は、C14による年代決定だ。
放射性同位体の量から年代を決定するという手法は既に一般化されており、
その簡単な解説かと思えば、良い意味で期待を裏切る。
本書では、そもそもC14の量が理論的に一定ではないことから始まり、
気候変動による増減をはじめ、
陸上・海中で異なる増減要因などを詳しく説明する。
そのうえで、それぞれの環境にあわせた補正を行うために、
陸上では5万年前までの歴年代較正曲線としてIntCal09、海洋生物にはMarine09というものが用意されており、
これらを用いることで初めて正しい年代決定ができるのだ、と示す。
また、質量分析の方法、コンタミネーション(資料汚染)を防ぐ方法なども説明した上で、

「新潟県の火炎土器様式の土器は、暦年較正年代としてはほぼ5300年前から4800年前にかけて、およそ数百年という極めて短い期間存続していたことがわかってきた。」p41


と語る。その説明の流れに、事実の重みを実感するものである。

他章も全てこんな調子で、なぜトチノミが縄文人の主食となったのか、
そしてそうした木の実を数年単位で貯蔵していたという、狩猟民俗である縄文人の知られざる一面や、
石器に残るわずかな光沢を帯びた使用痕、「ポリッシュ」の分析によって出土した石器の使用状況を解明する試み、

また、漆の成分分析を行うことにより、かなり昔でも、不足している漆液を補うためには、東南アジアから漆を購入して使っていた事実(p172)や、
大変な手間と時間を要する漆を狩猟採集時代といわれる縄文時代に行っていたにも関わらず、なぜか弥生時代になると出土漆は極端に少なくなるという疑問点などを指摘する。

考古学はロマンの世界だが、
現実の最先端の考古学では何に着目し、どのような分析を行っているかを丁寧に説明することは、
考古学に漠然と興味を抱く若い世代に対しても、明確な航路を示すことになるだろう。

また成人にとっては、現代の考古学が、どれほどの客観的・科学的分析のうえに成立しているかを知ることで、
その基礎科学としての重要性と発展性を実感できる一冊になるだろう。

考古学は経済的利益には直結しないとして予算も削減されがちな昨今だが、
本書は、それがどれほど愚かな行為で、どんなに「日本の歴史解明」という大義に反しているかを如実に示している。
より多くの方にお読みいただきたいし、この続刊も期待したい。

序章 発掘からはじまる歴史学
第1章 炭の粒で年代を測る
第2章 森の資源とその利用
第3章 食べたものを明らかにする
第4章 石器が語る「使用履歴」
第5章 ミクロの痕跡から情報を読みとる
第6章 漆のふしぎとジャパン
第7章 貝輪作りと実験考古学
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