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ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

国民食カレーに潜む謎。「幻の黒船カレーを追え」  

幻の黒船カレーを追え
水野 仁輔



玉ねぎを炒めてアメ色にするというプロセスは、日本特有のものである。
(p17)



日本でカレーライスを喰わずして成長することは、困難である。
また、小学校の野外学習で作った方も多いだろう。
小学生でも作れるほど基本的には簡単な料理だが、
一方で街中では、多種多様なカレー店が競い合っている。
これほど間口が広く奥行きが深い料理は、そうそう無い。

しかし、カレーライスは生粋の日本料理ではない。
インドを植民地していたイギリスから渡来した料理であり、
日本で知られたのは明治以降。
最も古いレシピも、1872年(明治5年)の「西洋料理指南」である。

しかし一方で、現在の日本の「カレーライス」は、
先祖であるインドのカレーとも、
由来であるイギリスのカレーとも全く異なる。
タマネギを飴色になるまで炒め、とろみがついたカレーと言うのは、日本独自のものだ。
伝来から100年余りで、「国民食カレーライス」を確立した日本人。
その情熱の歴史にも興味があるが、もう一つ、見過ごされている謎がある。

実際に、日本に渡来した時の「カレー」は、どのようなものだったのか。

通説では、イギリス海軍により、船内でこぼれにくくするために「とろみ」を付けたカレーが渡来したのが始まりと言われているが、
実のところ、当時のイギリス海軍において、どのような「カレー」が提供されていたのか、確実な証拠はない。

また、日本におけるカレーの調理方法の基本である「玉ねぎを飴色になるまで炒める」という工程も、
実はその由来は不明である。

これほどまでに国内で普及したカレーライスだが、
その端緒は、いわば「伝説」の域をでないのだ。

さて、著者の 水野 仁輔氏は、カレーライスの人である。
カレー好きが昂じて、「東京カリ〜番長」というグループを結成。
レシピ集やカレー店ガイドなど著書も豊富な、カレー研究家の一人である。

その水野氏が、この謎、
「日本に渡来したカレーとは、果たしてどのようなものだったか」という根本的な疑問に取りつかれた。
本書はその謎を解明すべく、水野氏が日本・イギリス・ヨーロッパを彷徨う記録である。

ただ、いわゆる研究書ではない。
水野氏は、カレー研究家といっても一般人に過ぎない。そこには仕事も家庭もある。
だが、カレーの謎に対する伏せがたい想い。
その葛藤に悩みながら、水野氏は一歩一歩進んでいく。
探究方法も、決してエレガントではなく、またシステマティックではない。

五里霧中の中で、一人のカレー愛好者が挑んだ日本のカレー伝来史の謎。
その探究過程を記録したノンフィクションなのである。

もちろん、本書の中で紹介される様々な日本・イギリス・ヨーロッパ各地のカレー事情や、
日本最初のレシピに記載された材料「赤蛙」の真の意味、
そして遂に巡り会った、ある「カレー」と、
それに用いられていた材料の謎など、興味深いトピックスも多い。

しかし何より、
これほど馴染んだ「カレーライス」について実際は何も知らず、
また謎が多いという事実に蒙を啓かれる思い、
そして水野氏の種々の経験の現場に同行する感覚など、
本書の魅力は、その臨場感にあるだろう。

未開の地・辺境の地に対する冒険の記録は多いが、
本書もまた、「日本のカレーライスの起源」を辿る、優れた「冒険の書」である。


【目次】
第1章 祖父はインド 父はイギリス
第2章 日本の港で足跡を探す
第3章 海軍カレー神話
第4章 ルーツを探しにイギリスへ
第5章 ロンドンの迷宮
第6章 パリのインド人
第7章 ベルリンの二人の女性
第8章 おばあちゃんのレシピ
第9章 歴史的な発見!?
第10章 アイルランド行きのフェリー
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