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ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

科学分析の最先端と、歪み。「江戸の骨は語る――甦った宣教師シドッチのDNA」  

江戸の骨は語る――甦った宣教師シドッチのDNA
篠田 謙一



控えめにいっても、現在の基礎学問は危機的な状況にある。
(p151)



ジョヴァンニ・バッティスタ・シドッチGiovanni Battista Sidotti。
1708年(宝永5年)、鎖国下の日本に布教のため渡来。
髷を結い、武士の身なりに帯刀して屋久島に上陸。
しかし当然ながら怪しまれ、すぐに捕まえられ、江戸に護送される。
江戸では新井白石が尋問を担当し、得られた知見から「西洋紀聞」と「采覧異言」を書く。
また同時に、シドッチの人柄に惹かれたのか、白石は本国送還を上策として提言する。

だが結局、シドッチは宣教しないという条件で、拷問も囚人的な扱いも受けることなく、
茗荷谷(現・文京区小日向)にあった、過去にも宣教師が収容されていた切支丹屋敷へ幽閉された。

ところが世話役の2人に洗礼を施したとして、3人とも地下牢に入れられる。
それからほどなくして1714年(正徳4年)10月21日、46歳で衰弱死した。
その遺体は、2人と共に切支丹屋敷に埋葬された。

そして2014年。
この切支丹屋敷跡地を発掘中、3体の人骨が発見される。
一体は早桶に入れられたもの。2体は長持ち(直方体の大きな箱)に入れられていた。
この3体の遺体は、シドッチらなのか。
だとすれば、どの遺体がシドッチなのか。

本書は、その遺骨の調査を嘱託された国立科学博物館が、
形態的研究やDNA分析を行い、その謎を解明していく物語である。

江戸時代のキリシタンの埋葬方法といった歴史的トピックや、
DNA分析の基礎、
またミトコンドリアDNA分析(ハプログループと呼ばれるミトコンドリアDNAの変異をベースにした人種集団のグルーピング)、や核DNA分析(SNP分析と呼ばれる遺伝子変異をベースにした人種集団のグルーピング)などの原理と結果など、
DNA分析の最先端とその応用を楽しめる一冊となっている。

状況証拠から、3体のうち1体がシドッチであることは間違いないのだが、
現代科学がいかにしてそれを決定していくか、そうした謎解きを楽しめるだろう。

と同時に、冒頭にも引用したが、本書はこうした基礎科学の危機を世に問う書でもある。

今回の遺骨は、マンション建設のための調査において行われた行政発掘により見つかったものだ。
このため、区が主導しているものの、発掘しているのは民間業者、発掘資金もマンション施工主の負担とである。
そもそも、国立科学博物館が主体的に調査・研究したものではない。
まずこの点、「成果(特に経済的効果)が出る研究にしか予算を出さない」という日本の愚かさが、
「国立」の博物館でさえも主体的な研究が困難という愚かな状況を産みだしている。

そして、この行政発掘というシステムから、
区からすれば、国立博物館が単なる人骨調査の下請け調査機関的な位置づけになってしまう。
このため、最先端のDNA分析の成果や、江戸時代の宣教師シドッチの遺骨発見という歴史的ニュースが矮小化され、
国立科学博物館は主体的な論文発表すらできない状況に陥ってしまう。

詳細は本書に記されているが、それでも著者らは、
世間の風潮に押されて姿勢を変える区との折衝を重ねながら、
何とか今回の成果を発表し、また展示等でアナウンスすることができた。

だが経済原理を優先するシステムが、一歩間違えれば、
日本という国の歴史の手掛かりも、
また最先端の科学技術を用いた成果も公表されず、ひつそりと博物館の倉庫に眠ることになっていたのである。

以前からもそうだが、最近も基礎的研究の資金が激減している。
経済的成果が当初から見込まれなければ予算が付かないことが多いが、
正直なところ、「経済的成果があるか否か」を、予算担当者が正しく判断できるとは思えない。
「目先の利益」と、「将来的な利益」は全く異なるが、極めて近視眼的になっているのではないか。

その余波は、「国立科学博物館」にまで及んでいる。
その事実を痛感するためにも、本書は広く読まれるべきである。


【目次】
1 宣教師シドッチと切支丹屋敷の発掘
2 運び込まれた人骨の形態学的な特徴
3 DNA分析の基礎
4 DNA分析を開始する
5 次世代シークエンサによる分析のスタート
6 核ゲノムの解析
7 復顔プロジェクトと結果の公表
8 古代ゲノム研究の最前線
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