FC2ブログ

ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

出来ることからしか始められない。「「国境なき医師団」を見に行く」  

「国境なき医師団」を見に行く
いとう せいこう


下を向いていればその時間が無駄になる。
我々はできることをするだけだ。 (p380)



いとうせいこう氏の書は、本書と
ボタニカル・ライフ―植物生活 (新潮文庫)」(レビューはこちら)しか読んでいない。
だが、その2冊に通じて分かったことがある。
せいこう氏は、徹底して「主観の人」なのだ。

主観で語るということは、自身の眼、主体性、感覚、倫理等々、全てに責任を持つということでもある。
(「~と考える」と「~と考えられる」だけでも、その主体性には大きな違いがある。)

さて、「国境なき医師団」は、70数カ国に展開するグローバルな非営利組織。
正式名称は「Médecins Sans Frontières」、略称はMSFである。
独立・中立・公平の原則に基づき活動し、1999年にはノーベル平和賞を受賞した。
(日本でのホームページはこちらhttp://www.msf.or.jp/)

世界各地の紛争地帯に率先して入り、政治的立場に関係なく手を差し伸べる方針から、
ともすれば紛争に巻き込まれることもある。
その点について日本では批判的な声を聴くことがあるが、
果たして僕もそうだが、実際の紛争、難民が置かれた状況、
「国境なき医師団」を初めとする非営利組織の活動について、
どれだけの等身大の情報を持っているだろうか。

その「国境なき医師団」の活動を、せいこう氏は見に行く。
ということは、
とりもなおさず、彼らが必要とされる「世界の歪み」を見に行くということでもある。

そして前述のとおり、せいこう氏が主観の人であることから、
描かれる対象は、抽象化された組織としての「国境なき医師団」ではなく、
その中で活動する一人一人の人生、思考、
それぞれの現場の風景、日常、そして対象となる難民らの苦難である。

日本にいると、つい紛争現場の武力衝突のみが思い浮かぶ。
だが、それは始まりにすぎない。
そこから逃げ出す過程において、人々は更なる暴力・性暴力を受け続ける。
家族が殺され、または生き別れ、それでも生きるために国境を目指す。
そして、ようやく国境を超えても、今度は「政治的配慮」により難民となり、
閉ざされた難民キャンプで、延々と暮らし続けることになる。

そうした人々が、日々数百人以上押し寄せる場所。
その場所で、肉体的・精神的に傷ついた人々を癒すために活動するのが、
「国境なき医師団」である。

その活動は、単なる「理想論」では、不可能である。
薬一つとっても、限られた資金の中では、ジェネリック医薬品が有用となる。
また、途上国にではそれらの地域向けの価格設定もある。
だが、「先進国内に来た難民」には、途上国向けの価格設定は適用されない。
薬一つとっても、限られたリソースを最大限に活用する知恵が求められるのだ。

また、本書や類書でもよく取り上げられるのが、
物流面を担当するロジスティクスの重要性。
日本だと、つい医師・看護師の人数・質だけが取り上げられるが、
彼らが十分な活動を行うには、最低限の設備、滞在しつづける物資が必要である。
本書でも、そうした役割を担う人々が多数登場するが、
これからの日本の危機管理においても、ロジスティクスの配置は優先課題となるだろう。
(このロジスティクスが欠けている草の根的なNPOは、逆に迷惑をかけかねない。)

また、精神的なケアを担うスタッフが必須として在ることも、重要だ。
日本は緊急医療にしても被災地支援にしても、被災者・救援者問わず、
メンタルケアをおろそかにしがちである。
だが、傷は心にも在る。

根性、などというものは国際的な常識ではないのだ。(p360)



本書は、「国境なき医師団」に関するルポではあるが、
また同時に、世界の難民キャンプのルポでもある。
そして本書が示すように、
救援する側もされる側も、我々と全く変わりない人々である。
たまたま現在、彼らがそのような立場に在るだけなのだ。

中東やアフリカでの紛争と難民が世界的な問題となっているが、
もしアジアのどこかや朝鮮半島で紛争が生じれば、
日本も無関係ではいられない。

いや、むしろ日本こそ、近年の大規模災害をみれば、
いつ難民化するとも限らないのだ。
(実際、最近の震災では日本も「国境なき医師団」の活動対象国となっている。)

本書を読むことは、冷酷な現実と、
そこに手を差し伸べようとする希望を知ることである。

そして、自身に何ができるかを考えよう。
それが例え、どんな些細な事であっても構わない。
他者がどう言おうが、構わない。

もし誰かから、
(日本における「国境なき医師団」に対する無知から来る批難のように)
「そんなことをしても無駄だ」等と言われたら、
せいこう氏の言葉を借りて、こう告げよう。

出来ることからしか俺は始められないのだ。(p64)



【目次】
プロローグ
ハイチ編
ギリシャ編
フィリピン編
ウガンダ編
関連記事
 このエントリーをはてなブックマークに追加

category: 医学

thread: 読んだ本の紹介 - janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://birdbookreading.blog.fc2.com/tb.php/935-db17b3e5
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

中の人

アクセス

RSSリンクの表示

最新記事

カレンダー

アクセスランキング

月別アーカイブ

ブロとも申請フォーム