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ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

普遍的真実を求める歪んだ情熱。「疑惑の科学者たち: 盗用・捏造・不正の歴史」  

疑惑の科学者たち: 盗用・捏造・不正の歴史
ジル・アルプティアン



科学が追究するのは普遍的真理であり、それ自体は動かしようが無い事実である。
だが、それを解明・発見するのは人間であり、
人間が介在する以上、そこに恣意性が含まれることは避けようが無い。
そのうえで、恣意性を排除しようとする仕組みが現在の査読制であり、
現在は学術誌に出版された論文を研究者同士でチェックするサイトもある(https://pubpeer.com/)。

ただ、「研究成果」こそが研究者の評価の元であり、それによって以降の研究生活が左右される以上、
より良い「研究成果」を出すことは、何らかの組織下にいる研究者には常に求められている。

一方現在、「研究成果」とは「実益」を出すか、「論文」を出す(そして引用される)ことだ。
そうすると、本来「普遍的真理を追究する」ことが目的であり、
そのための目標や過程として「論文化」「実用化」があるにも関わらず、
いつしか「論文化」「実用化」が研究の目標になってしまう。

そこから、不正に手を出すか否かは、各研究者自身で律するしかない。

本書は、古今東西の科学者について、
それぞれの不正・疑惑とその経緯等を紹介するもの。

第三者の研究結果を流用したり、引用・参考しても明示しない不正から、
研究結果の捏造まで様々だ。

また、多くの場合は単独又は複数の科学者によるものだが、
観光資源とするために、ホンジュラス人はマヤ人の末裔であるという、
一国の歴史を丸々書き換える国家的な不正も含まれている。
(なお、これを「近代文明の歴史ではまれなこと」と著者は記しているが、
東アジアではそうではないだろう。)

一方、アインシュタインやパスツール、メンデルといった有名どころも登場する。
こちらは先行研究の隠蔽や、実験結果の捏造等だ。
多くの場合、それにより彼らの生涯の業績が否定されるものではないが、
他にも同様に科学史に名を刻めた人物がいただろうことは否めない。

そして何とも、訳書でありながら、
小保方晴子、藤村新一、藤井義隆と3人も日本人が取り上げられている点が目を引く。
ノーベル賞まで噂された小保方氏。
考古学という世界で捏造を行った藤村氏。
そして183編もの論文が捏造として抹消された藤井氏。

これらのうち、小保方氏と藤井氏が2000年以降の事例であることからも、
実益主義・評価主義に陥っている日本科学と日本社会の問題について、
もっと危機意識を持つべきだろう。

短い章で構成されているため読みやすいが、
もちろんこれだけで全てが分かる筈もない。

本書を手掛かりとして、より詳細に各事件を負うことが良いだろう。
(例えばルイセンコによる悲劇など、1冊にすら収まらない。)


【目次】
1 考古学
 カーディフの巨人
 ロアタン―国家的な考古学の不正
 アーサー・エヴァンズとミノア文明の発明
2 生物学と医学
 ルイ・パストゥール―伝説と不正のあいだ
 オットー・オーヴァーベックの若辺り機器
 小保方晴子―ノーベル賞の夢
3 遺伝学
 グレゴール・メンデルの完璧すぎるエンドウ
 シリル・バートと遺伝する知能
 ルイセンコとプロレタリア生物学
4 物理学
 アインシュタイン―総合の天才?
 ルネ・ブロンロのN線
5 革新的技術
 機械仕掛けのトルコ人
 夢想家の貴族とテレビ修理屋
6 進行中の歴史
 ヤン・ヘンドリック・シェーン―将来を約束された物理学者のお粗末さ
 黄禹錫―クローン作製の英雄
 オリヴィエ・ヴォワネ 早すぎた出世?
 藤村新一 捏造に捧げた人生
 ドンピョウ・ハン 研究者に科せられた最も重い刑罰
 藤井義隆 科学不正の世界記録
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