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ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

侵入は安し、駆除は難し。「終わりなき侵略者との闘い~増え続ける外来生物~ (小学館クリエイティブ単行本」)  

終わりなき侵略者との闘い~増え続ける外来生物~ (小学館クリエイティブ単行本)
五箇 公一



 かっての外来種と現代の外来種の大きな違いは、その移動 (移送)の速度と量にあると言えます。古い時代は、 人間が生物を運ぶ速度や距離には限界がありました。また、移送された先でも、豊かな自然生態が存在する限り、外来種も容易には先人たち(在来種) のニッチ(生態的地位)を奪うことはできなかったと思われます。
 しかし、1700年代の産業革命以降、人間は、かって生物が手にしたことのない強大な力を手に入れ、高速移送・長距離移送の時代に突入しました。今や、大陸間の移動は1日もかからずに可能となり、寿命が短い生物でも、簡単に海を渡ることができるようになりました。p148



 この、かってない速度での自然環境の改変、それに伴う外来種の際限のない分布拡大の果てに、どのような生態系が待ち構えているのかは、科学的にも容易には予測できません。(略)
 結局、なにが起こるかわからないという予測不能性こそが大きなリスクと捉えて、我々の生物多様性に対する理解が少しでも進むまでは、現状維持を図ることが最善策と考えられます。とすれば、やはり、外来種をこれ以上増やさないことが賢明であり、外来種が増えにくい環境をつくることが先決、と結論されるのではないでしょうか。p149



外来生物については、昨今テレビでもよく取り上げられる。
以前よりも、外来生物の蔓延は問題だ、という認識も普及しつつある。

しかし、依然として、「外来生物が居るのも生物多様性だ」とか、「人間の活動がある限り外来生物の侵入はやむを得ない」、「そもそも日本に生息する生物の大半は外来種だ」等の意見もある。

本質的に、「現代の外来生物問題」を考える上では、
まず生物多様性とは、地質年代レベルの長い時間をかけて培われたものであり、各地域ごと―国レベルではなく一つの河川・山・洞窟といったレベルで―異なるものであるという認識、
そして外来生物の移動範囲・速度が劇的に早く、例えば古代日本において、
稲作と共にスズメが入った等の緩やかな環境変化を伴ったものではないという認識が必要である。

すなわち、生物多様性に関するより深い知識と、現代文明のグローバル化を前提にする必要があり、
それらを考慮せず、自身の知識・印象の範囲だけで論じることは避けなければならない。

だが、人は、自身に影響がない問題については、積極的に深く知ろうとしないものである。

その点を踏まえ、本書は様々な外来生物問題について、
最新の知見を踏まえながら、ヒトへの生活への影響も踏まえながら解説するものだ。
類書と異なる点として、各外来生物について、様々な切り口が提供されていることが挙げられる。

まず、世界的な貿易の自由化との兼ね合い。

例えば昨今、多種多様なクワガタムシが輸入・販売されているが、
元々クワガタムシは、植物防疫法によって輸入が禁止されていた。
しかし1995年にWTO(世界貿易機関)が設立され、自由貿易が促進された。
これにより、1999年11月に突然外国産クワガタムシ・カブトムシの輸入が解禁。
2008年までには700種以上が輸入自由となり、年100万引匹が輸入されている。

また、田圃で良く見るスクミリンゴガイ、通称ジャンボタニシ。
これは2012年に植物防疫法による「検疫有害動物」に指定され、観賞用の種も含めて輸入が禁止されたが、
しかし、WTOが定めるSPS協定(衛生植物検疫措置の適用に関する協定)では、
既に国内に分布している種を検疫対象にすることは、自由貿易の原則に反するとしている。
このため、2014年に規制は解除されてしまっている。

そして、グローバル化。

カエルツボカビ症は日本に侵入したのではなく、その菌系統の多様性が最も日本で多いことから、
そもそも日本由来の感染症であると考えられる。
実は1950~80年代は日本は養殖したウシガエルを欧米に輸出する輸出大国であり、
この時に菌が持ち出されたと考えられる。
2014年にはイモリツボカビ菌がヨーロッパで発見されているが、これも由来は東アジア。
日本アカハライモリのペット輸出が一因とも考えられる。

さらに、人為的な交雑化。
アメリカ大陸で問題となっているキラー・ビー(アフリカ化ミツバチ)は、
1950年代、ヨーロッパ産のセイヨウミツバチを、熱帯域で活動させるべく、アフリカ原産のアフリカミツバチと交雑させたものが先祖だ。元々性格が荒く、巣の防衛反応が強いため、十分な注意をしていたが、1957年に26匹の女王バチが逸出。
この子孫が野外のセイヨウミツバチと交雑を重ね、「アフリカ化」=凶暴化が進行。
1990年代にはテキサス州に至っている。

こうした諸問題について、外来種が侵入するのも容認すべき、と安易に結論づけることはできない。
それは、外来種問題について安易に考えた先例が、日本にあるからだ。

沖縄固有種に対する影響が多大なマングース。
また、日本中に蔓延したアメリカザリガニ、ウシガエル。
これらが日本にいることが、正しい日本の生物環境ではないことは明らかだ。

そして実は、これらの種は一人の人物が関与している。
それは、東京帝国大学の渡瀬庄三郎博士(1862-1929)。
マングースは渡瀬博士が導入し、渡瀬博士はアメリカザリガニ、ウシガエルの導入も促進した。
博士は生物地理学の権威であり、天然記念物保護法にも貢献したが、
その生きた時代は幕末から昭和4年。
富国強兵を唱えて各種の生物を利用することが是とされ、外来生物のリスクに関する概念も知見もなかった。

そうして導入した外来生物が現在大問題になっている。

こうした先例があるのに、今侵入しつつある外来生物について、渡瀬博士と同じ結論を出してはならない。

また、外来種は人間の生活の安全に直結する場合も多い。

アライグマ。
アジアで狂犬病の心配がない国は日本のみ。
裏を返せば、狂犬病発症国に囲まれていてい、再侵入のリスクが極めて高いのだが、
その中に、狂犬病のキャリアとなる外来生物であるアライグマが蔓延している。

ツマアカスズメバチ。
2015年9月には福岡県で巣が、2016年5月には宮崎県で女王バチが捕獲されている。

本書は豊富な事例と分析により、現時点の外来種問題の最前線の一端を学べる、
非常に有用な本である。

なお、植物の外来種については殆ど、鳥類については全く触れられていない。
本書の続編が刊行されることを望む。



【目次】
セアカゴケグモが増えた夏 そして忘れ去られた夏
殺人アリ・ヒアリの上陸に備える
カエル、イモリが絶滅する!?両生類界の新興感染症のパンデミック
有用昆虫セイヨウオオマルハナバチの光と陰
なぜ日本人は輸入するほどクワガタムシが好きなのか?
世界を駆け巡るダニ
小笠原の固有生物群を食い尽くすグリーンアノール
農薬の環境安全性は外来ミジンコで測られている
マングースはハブと闘わない
侵略的外来生物としての病原体
SF映画が現実になった“キラー・ビー”人間がつくり出した殺人ミツバチ
アニメも影響して輸入されたアライグマ 実はとても危険な動物だった
ミドリガメ 正体は侵略的外来種ミシシッピアカミミガメ
外来種と在来種の国際結婚はなにが問題なのか?交雑による遺伝的多様性の攪乱
アリゲーター・ガー、ピラニア、ニシキヘビ…外来種の宝庫と化す多摩川
かつては貴重なたんぱく源だった 巨大カタツムリと巨大タニシ
中国産スズメバチが対馬に襲来 本土上陸を食い止めよ
親しまれる外来ザリガニ―食用からペットまで
スズメもネコジャラシも大陸からやってきた外来種か在来種かはどう決める?
日本の外来生物対策最前線
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