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ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

懸命に生きることこそ、救いの道。「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック 女子刑務所での13ヵ月」  

オレンジ・イズ・ニュー・ブラック 女子刑務所での13ヵ月
パイパー・カーマン



そんなことより、私たちは悲惨な環境でもたくさんのユーモアと独創性の源を保つことや、刑務所のシステムが叩き潰そうと命じようが、私たちの人間としての誇りを守り、維持する意志の力を共有した。自分ひとりの力だけで何とかできるものとは思わない。私には絶対に無理だ―助け合わなけれは、無理だ。
 与える側、受け取る側、どちらであろうと、生まれや育ちがどうだろうと、些細な優しさ、ささやかな喜びをみんなで分かち合うことが何より大事なのだ。だからこそ、受刑者仲間が懸命に私の出所を支えてくれた。だから、私はこの世界でひとりばっちじゃない。この人生をたったひとりで生きてはない。 (p436)



脱獄にしろ服役にしろ、刑務所をテーマとしたドラマは多い。
それをワクワクして見ることもあるが、そうした気持ちでいられるのは、
自分は絶対にそこには行かないという安心感があるためだ。

だがある日、遥か過去に犯した過ちによって、突然「刑務所行き」が宣告されたとすれば。
今の仕事、住居、家族。全てに自身の刑務所行きを告げ(つらい作業だ)、
彼らが待ってくれるだろうことに期待を残し、
「自分は絶対にそこには行かない」と思っていた世界が、自分の生活の場となる。

精神的にも肉体的にも、耐えられるかどうか。想像することすら困難だ。

だが、著者パイパー・カーマンは、そうした転落を体験することとなった。

20代前半、彼女は年上の女性とつきあっていたが、その女性は麻薬取引を行っていた。
パイパー自身は麻薬には手を出さなかったが、「危険なもの」に憧れる年頃。
恋人のノラに求められ、取引のための資金を運ぶ手伝いをしてしまう。
その危険性に気付き、ノラから離れ、真っ当な道、平穏な生活を構築していく。
5年が経過し、恋人と出会い、婚約に至った時、過去の亡霊が、パイパーを襲う。
逮捕されたノラが、運び屋・マネーロンダリングとしてパイパーの名を挙げてしまう。
そしてパイパーは、15カ月の懲役を宣告される。

本書で描かれる犯罪時は、ほんの1章と極めて短い。
それほどパイパー自身にとっても、「若気の至り」だったのだろう。
だがその過ちが、以降の17章にも渡る刑務所生活の引き金となったのだ。

しかも、アメリカの司法制度のシステム的な問題から、逮捕から収監までも5年ほども経ってしまう。
その間続いていた将来への不安、恐れ。想像するだけでも憂鬱になってしまう。

そして、迎えた刑務所では、想像していたものとは異なる、他の受刑者たちとの生活が待っていた。

本書はパイパーが、逮捕から釈放までの日々を辿りながら、
特に収監されていたダンブリーの刑務所での生活を綴っていく。
(なお、本書巻末に人物相関図が有る。様々な人が出るので、
 これを見乍ら読むほうが良い。読後にその存在に気付いてしまった…。)

こうした「本」を書ききることからも分かるが、パイパー自身はしっかりと教育を受けた常識人でもある。
だからこそ、しっかりとした教育も受けられていない受刑者が多いダンブリーでは、異質の存在だった。
囚人同士のルール。刑務官とのルール。
守られるべき規則と、黙認されている規則違反の数々。

本書は前半、パイパー自身の目的も、刑務所でのサバイバルに在る。
それは、間違って法を犯した新参者、部外者という立場によるものだ。

だが中盤以降、パイパーは他の受刑者と同じ立ち位置となり、
他の「仲間」と共に生きていくことが日常となる。
そして見えてくるのが、アメリカの刑務所というシステムが、
彼ら/彼女らの更生には全く役立っていないという事実だ。

本書に綴られた刑務所での日々、それぞれの受刑者の姿は、匿名ではあるものの、事実である。
それを踏まえて、「中の人」となったパイパーが感じたのが、
人としての尊厳を維持することの重要性だ。

刑務所の中の生活を見たい、という興味から手にとることもあるだろう。
だが、本書が最後に示すのは、極限状態にあって、「人として生きる」ことの本質だ。

本書は、NETFLIXのドラマ「Orange Is the New Black」の原作でもある。
ドラマは既に第5シーズンまで公開され(2018年6月時点)、
少なくとも第7シーズンまでが予定されているという、ヒット作品となっている。
そちらは未視聴ではあるものの、タイトル等を見てみると、
確かに本書で触れられた人やトピックが拡大されているなと分かる。
もちろん、それはそれで楽しめる作品なのだろうが(だからシーズンも続いている)、
一冊で完結している本書は、もちろんドラマよりも凝縮され、
メッセージ性も強い内容となっている。
ドラマを見た方も見ていない方も、素直に楽しめる一冊だろう。

なお本書は、レビュープラスを通じて頂いた一冊。
思いがけない本と出会えたことに感謝します。


【目次】
・1章 Are You Gonna Go My Way? 自由への逃走
・2章 It All Changed in an Instant すべてがあっという間に
・3章 #11187–424 11187-424
・4章 Orange Is the New Black オレンジ・イズ・ニュー・ブラック
・5章 Down the Rabbit Hole うさぎの穴を真っ逆さま
・6章 High Voltage 高電圧
・7章 The Hours 私たちの時間
・8章 So Bitches Can Hate ビッチに思い知らせてやる
・9章 Mothers and Daughters 母と娘
・10章 Schooling the OG OGを鍛える
・11章 Ralph Kramden and the Marlboro Man 良い刑務官、悪い刑務官
・12章 Naked 裸になって
・13章 Thirty- five and Still Alive 35歳、まだまだこれから
・14章 October Surprises 10月はサプライズ続き
・15章 Some Kinda Way 何かそんな感じ
・16章 Good Time 減刑
・17章 Diesel Therapy ディーゼル療法
・18章 It Can Always Get Worse この世にサイアクが尽きることなし
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