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ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

DNAに対する理解は、ここまで進んだ。「エピジェネティクス――新しい生命像をえがく (岩波新書)」  

エピジェネティクス――新しい生命像をえがく (岩波新書)
仲野 徹



エピジェネティックな特性とは、DNAの塩基配列の変化をともなわずに、染色体における変化によって生じる、安定的に受け継がれうる表現型である p21


DNAの二重らせん構造がワトソンらによって提唱されたのが1953年。
遺伝のメカニズムを解明する鍵を人類は手に入れた。
そして、キャリー・マリスがDNAの効率的な増幅方法であるPCR法を発表したのが1987年。
少量の分析試料を劇的なスピードで増幅させることで、DNA分析をごく限られた研究者の世界から、
一気に商業ベースへ引き込んだ。
その結果、DNAさえ分かれば全てわかるかのように思われていたが、
その背後で研究され、見出されたのがエピジェネティクスという仕組みである。

単純に言えば、
DNAに対して「修飾」がなされることで、
その遺伝子の発現が活性化されたり抑制されたりすることである。

従来の遺伝子だけだと、単に親から受け継いだ遺伝子を次世代に渡すのみだった。
だが実際には、ある個体が生きている間に、
様々な要因―栄養状態や環境圧等々―によりDNAに「修飾」が加えることによって環境に最適化したとき、
その活性化/不活性化という「修飾」も、遺伝子と共に次世代に受け継がれうる。

「親から受け継いだ遺伝子のみ」が遺伝されるのではない、という点で、
エピジェネティクスは極めて重要な知見なのである。

ただ誤解されやすいのは、ラマルクの用不用説の復活ではない、という点だ。
受け継がれるのが生殖細胞由来の遺伝子である(ただ、それに修飾が伴う)という点については変更がないため、生きている間に獲得した形質が、そのまま生殖細胞に修飾を及ぼすわけではなく、引き継がれもしない。
ただ、生殖細胞に及ぼされた修飾のみが影響し得るのである。

この点について、本書では、次のように説明している。

一方で、用不用的な獲得形質と、環境因子は区別して考える必要がある。薬物や栄養状態という外界からの影響は、体細胞だけでなく、同じような変化を生殖細胞に及ぼす可能性がある。このような場合には、生殖細胞に生じたエピジェネティックな変化が遺伝しうることが示されている。/略/しかし植物では少し話がちがってくる。生殖細胞のできるタイミングの違いとDNA脱メチル化のちがいから、獲得されたエピジェネティックな変化が比較的容易に次世代に伝わりうるのである。


エピジェネティクスの概念を理解するには、具体例でみる方が早い。
本書では「くわしく調べられているわけではない」が、たぶんエピジェネティクスによるものというちょっと弱い事例ではあるし、エピジェネティクスに依らずともに説明が可能なのでちょっと苦しいが、
一読して最も分かりやすいのが、ロバとウマ、ライオンとトラの異種間交配だ。

ロバとウマは、交雑が可能である。
ただ、
♂ロバ×♀ウマ=ラバ、
♀ロバ×♂ウマ=ケッティ と、呼び名が違う。

それは、次のような違いがあるからだ。
ラバ:ロバに似る。大きい。粗食に耐え、おとなしい。
ケッティ:ウマに似て、扱いにくい。

同様に、ライオンとトラも交雑可能であるが、これも
♂ライオン×♀トラ=ライガー
♀ライオン×♂トラ=タイゴン と、呼び名が違う。
ライガーはトラに似た模様で、ネコ科で最大サイズになるが、
タイゴンは両親よりも小さく、模様も様々である。

いずれもDNAの種としての比率は、
ロバ1/2 + ウマ1/2
ライオン1/2 + トラ1/2 と同じであるのに、
なぜ親が♂か♀かで、形質が異なるのか?

DNAのみで説明する場合、
♂の性染色体にのみ存在する遺伝子による限性遺伝の結果とも言えそうだが(もちろん僕の的外れな考えもしれない)、
これも生殖細胞時、ゲノムに対して何らかの情報の追加(ゲノム刷り込み)が♂♀で異なり、
それが表現型に影響を及ぼした、と考えられる。

本書では、こうしたエピジェネティクスについて、
執筆時点で判明しているメカニズムや事例等を踏まえながら解説していく。
ただ全体的に内容が専門的で、
特に第2章、エピジェネティクスの分子基盤としてメカニズムを解説している個所が、やや難儀。
正直なところ、1度はここで読むのを挫折した。

エピジェネティクスを理解するためには避けて通れず、
また以降の各事例を適切に読み取るにも欠かせないのだが、
メカニズムの説明はどうしても細かなDNAの分子レベルの話となるとともに、
まだ未解明な部分もあって、理解が追いつかない。
ただこれは著者のせいでなく、エピジェネティクスという分野そのものの問題だろう。

だが、遺伝やDNAを理解するうえでは、今後避けられないテーマでもあることから、
ぜひ読み飛ばしつつも、とりあえず一読することをお勧めする。

本書を読みつつ気になったのが、これも僕の読み間違いかもしれないが、
昨今話題の「遺伝子組み換え」。
DNAの組み替えはもちろん可能だが、こうしたDNA修飾についてはどこまで配慮しているのだろう。

【目次】
序章 ヘップバーンと球根
第1章 巨人の肩から遠眼鏡で
第2章 エピジェネティクスの分子基盤
第3章 さまざまな生命現象とエピジェネティクス
第4章 病気とエピジェネティクス
第5章 エピジェネティクスを考える
終章 新しい生命像をえがく
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