ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

日本の技術が、宇宙を覗く。「スーパー望遠鏡「アルマ」の創造者たち」  

スーパー望遠鏡「アルマ」の創造者たち
山根一眞



近年はニュートリノや重力波の観測など、
宇宙観測の成果がニュースになることが多い。
それらは驚くべき成果に違いないが、
成果を「実感できない」という隔靴掻痒の感がある。

ガリレオの観測以来、天文学は観測技術の進歩と共に歩み続けていることを考えれば、
ニュートリノや重力波など、そもそも「見えないもの」を見ることもさることながら、
単純に「遠くて見えない」ものこそ、見たい。

だが、単純な光学望遠鏡では建設上の限界がある。

それを突破するのが、様々な電磁波の波長を観測するの複数の電波望遠鏡を組み合わせ、
それらのデータを統合することで一つの超大型電波望遠鏡とする仕組みだ。

電磁波による宇宙観測、電波天文学において、日本はかつてトップランナーだった。
1982年に開設された野辺山宇宙電波観測所には45mの電波望遠鏡を備え、
また、4年後に追加された10m×5台のパラボラアンテナの組み合わせにより、
複数の電波望遠鏡のデータを統合する「干渉計」というシステムでも世界に先駆けていた。

だが、国内でさらに大きく、多くの電波望遠鏡を備えることは困難である。
観測には「乾いた大気」が必要だが、日本には適地は極めて少ない。

ならば、世界と協力して次世代の電波望遠鏡施設を創れば良い。

現在のアルマ望遠鏡は、このように日本主導で始まった。
口径12mのパラボラアンテナ54台と、口径7mのパラボラアンテナ12台、
合計66台を結合させることで、1つの巨大な電波望遠鏡を作りだすという大プロジェクトだ。

ところが、小泉改革時代に予算の小出しや削減が続いたことから、
日本は計画参加に対するアメリカの信用を失い、プロジェクトは米欧主体で動いてしまう。

なんと、2年遅れでようやく予算の裏付けを得て参加した際には、
メインシステム建設の多くは米欧が確保してしまっていた。
結局、日本はパラボラアンテナは66台のうちの16台、電波をとらえる受信機は10種類のうち3種類を担うことで妥結する。
実は、このように建設に対する貢献度が下がるということは、
運用後の利用権が減少するということに他ならない。

日本が計画し、主導してきたはずの世界的施設、それも今後数十年は類似施設はできないだろうという規模の施設において、
日本の利用権が奪われていく。

それだけではなく、こうした施設を創るための基礎的な研究や技術的発展、経済的な波及効果も併せて失ったのだ。

そのような逆風の中ながら、それでも極めて精緻なシステムを、いかに創り上げるか。
日本の「モノ造り」の見せ場である。
例えばアンテナの鏡面は誤差1000分の4mm。
しかもそれが、昼夜の気温差が40度となるような環境下で、1000分の1mmレベルの熱変形を起こさないようにしなければならない。
通常とは全く異なるレベルの製作となる。

これらの難題に、いかに日本各地の末端の技術者が挑み、
いかなる試行錯誤と工夫を行ったのか。
それこそが、本書にしか描かれていないストーリーである。

アルマ望遠鏡の成果については、
国立天文台のオフィシャルページ https://alma-telescope.jp/ でも紹介されているし、
その建造史についても触れられている。

だが上記のような紆余曲折、そして多くの技術者の奮闘は、紹介されていない。

ぜひ本書を手に取り、その裏側のストーリーを知っていただきたい。
そうすればアルマが映し出した多くの映像が、
いかに驚異の技術的成果なのか、実感できるだろう。

【目次】
序章 嵐の神戸港
第1章 電気仕掛けの望遠鏡
第2章 野辺山のサムライたち
第3章 奪われた花嫁
第4章 魔法工場のデスマッチ
第5章 凧揚げとガンダム
第6章 冷たいラジオの作り方
第7章 天空のセレモニー
終 章 奇跡の星、地球
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