ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

全ては、雪煙の彼方へ。「雪男は向こうからやって来た」  

雪男は向こうからやって来た
角幡 唯介



探検家としての角幡氏の経歴はツアンポー渓谷探検に始まり、
作家としての経歴も「空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む 」で始まる。
ただ、それと同時並行的に関わっていたプロジェクトがある。
本書で紹介されるネパールにおける雪男捜索だ。

本書は、朝日新聞社に籍をおいていた縁から、雪男創作ブロジェクトの一員として同行することとなった著者によるルポ。
とはいっても、客観的な立場からのルポではない。

雪男とは何なのか、という学実的な探索はほぼ、無い。
在るのは、「なぜ人は雪男を求めるのか」という問いだ。

もちろん現在までの知識として、雪男は存在しない(少なくとも現在まで確認されていない)という事実があるため、この捜索では見つからないという結論が見えている。

だがこの捜索時点では、誰もそうした結論は知り得ない。

だからこそ、著者は捜索隊に参加するにあたり、雪男の存否について常に葛藤を抱いている。
6回もの雪男捜索を行い、その結果現地で遭難死した鈴木紀夫氏。
その遺志をついで、2008年に3回目の捜索隊を率いる高橋好輝氏。
捜索隊のスタッフも、2度、3度と回を重ねた者も多い。
これほどまでに、雪男の捜索は人を動かしているという事実 。

その一方で、現地人は明らかに雪男の存在を否定する事実。

偶然隊に参加した著者は、この葛藤を抱きながら監視を続けていく中で、
いつしか自分にも「雪男を求める想い」が生じていることに気づく。

雪男捜索活動のルポ、雪男という存在に対するルポとしては、
その取材の深さ、客観性共に不十分と言わざるをえないため、こうした面での価値を本書に求めることはできない。

ただ、角幡 唯介という、雪男なんて全く興味もなかった人間が、
いかに雪男に「魅せられて」いくかというリアルタイムの記録として、本書は優れたルポである。

なお本書は同時に、著者と同じく、探検家として「生きざるを得なかった」先達、
鈴木紀夫氏に対する鎮魂の一冊でもある。
ルパング島で残留日本兵・小野田寛郎氏を発見した鈴木紀夫氏が、
探検家としていかに葛藤し、自身の人生を再構築しようとしていたかに興味がある方は、
ぜひ本書をお読みいただきたい。

第1章 捜索への招待(二〇〇八年三月一七日・日本)
第2章 シプトンの足跡
第3章 キャラバン(二〇〇八年八月一七日・カトマンズ)
第4章 登山家芳野満彦の見た雪男
第5章 密林(二〇〇八年八月二六日・アルチェ)
第6章 隊長高橋好輝の信じた雪男
第7章 捜索(二〇〇八年八月三〇日・タレジャ谷)
第8章 冒険家鈴木紀夫だけが知っている雪男
第9章 撤収(二〇〇八年九月二六日・コーナボン谷)
第10章 雪男単独捜索(二〇〇八年一〇月一五日・ポカラ)

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