ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

石は、意思だ。「石ひとすじ―歴史の石を動かす」  

石ひとすじ―歴史の石を動かす
左野 勝司



2007年に実施された、高松塚古墳の解体修理は記憶に新しい。
石そのものではなく、表面に塗られた漆喰に絵が描かれた巨石を、
一切破損させずに運び出す。
しかもそれは国宝であり、一挙一動が注目されている。

これほどのプレッシャーの中、見事に成し遂げたのが本書著者が率いる飛鳥建設と、クレーンメーカーのタダノである。
なぜ著者が、高松塚古墳の解体工事に携わるようになったのか。

高松塚解体時には、既に伝統的石造物の保存・修理なら左野氏しかしないという評価を得ていたが、
そこに至るまでの人生、まさに駆け出しの時代から全ての記録が、ここに綴られている。

石屋として実直であるだけではない。
唐招提寺の故森本恭順長老との出会い。
左野氏は単なる石屋ではなく、森本長老の息子のように、森本氏の日常に寄り添うようになっていく。
本書の前半部はその日常が綴られているのだが、天衣無縫というか豪放磊落というか、
何とも複雑な優しさと厳しさと同居している森本氏の元で、
左野氏は石屋としても人としても修行しているかのようだ。

そしてその出会いの中で、伝統的石造物に積極的に携わっていたことから、
石のスペシャリストとして石舞台古墳の復元実験への参加に繋がる。

そしてその経験が、タダノが手がけたモアイ復元プロジェクトに活かされていく。
モアイ復元プロジェクトについては、南三陸町の復興のシンボルであるモアイに関する物語「モアイの絆」(レビューはこちら)でも詳しいが、本書はそれを左野氏の目線で語ったもの。
それそれの考え方は異なれども、モアイ復元プロジェクトが物心両面で偉大なプロジェクトであったことを実感する。

そして、モアイ復元プロジェクトを通してタダノと付き合っていたことで、
高松塚古墳の解体工事が成し遂げられたのだ。

考えてみれば、あれほどセクショナリズムによって劣化してしまった高松塚古墳である。
復元工事もセクショナリズムのために、船頭多くして船山に上るではないが、
遅々として進まなかった可能性も十分ある。

だが実際は、左野氏とタダノという、伝統石造物の修復・復原については誰もが疑いようのない実績がある両者がいたことによって、作業は極めてスムーズに(というか、自己犠牲の上に)進んだ。
日本の文化財保護において、このタイミングで両者が在ったことは、極めて僥倖であったと言える。

その後も両社はアンコールワット遺跡の修復なども手掛けるが、
気がかりなのは「あとがき」である。

左野氏は語る。
私はいま、修理ができました、石室を元に戻してくださいと言われたときが一番怖い。
(略)
なぜかというと、私は解体の二年半のプレッシャーを乗り越えた。解体している四か月ではない。私にとって大きいのは解体前の、二年半のプレッシャーだった。あわせて約三年という時間のプレッシャーを、また乗り越えられるか、私には自信がないからだ。

左野氏は、1943年生まれ。2017年現在で74歳だ。

高松塚古墳の復元(いつになるかは不明だが)だけでなく、
今後も、日本の伝統的石造物は常に修復・保存を要する。

左野氏に続く人が育つのか。日本の文化財保護行政の大きな課題だろう。


【目次】
1 石との出会い
2 唐招提寺と生涯の師
3 忍性の墓・行基の墓と竹林寺
4 石舞台古墳の復元
5 世界と飛鳥の石造物
6 モアイ像の復元
7 アンコール遺跡・西トップ寺院の復元
8 高松塚古墳の解体をめぐって


関連記事
 このエントリーをはてなブックマークに追加

category: 技術

thread: 読んだ本の紹介 - janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://birdbookreading.blog.fc2.com/tb.php/821-94cd08a2
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

中の人

アクセス

RSSリンクの表示

最新記事

カレンダー

アクセスランキング

月別アーカイブ

ブロとも申請フォーム