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オリーブオイルは、本当はもっと素晴らしい!! 「エキストラバージンの嘘と真実 スキャンダルにまみれたオリーブオイルの世界」  

エキストラバージンの嘘と真実 スキャンダルにまみれたオリーブオイルの世界
トム・ミューラー



小豆島でオリーブを生産しているため、香川では「オリーブ」という言葉が身近だ。
その視点で店に行くと、多種多様なオリーブオイルがある。
そのほとんどが「イタリア産のエキストラバージン」であることに、
いつも引っかかるものを感じていた。

そもそも、「エキストラバージン」って何だ?
ある程度の等級を示すもの、しかもその語からは、最も新鮮で価値が高いものと感じられるが、
どうして「どれもこれも」エキストラバージンなのか。
そして、安い。
他の食品では、当然高級グレードほど少なく、高価だ。
それなのに、なぜオリーブオイルの高級グレードだけは大量かつ安価に提供されているのだろうか?

その疑問の答えが、この一冊だ。

ところで初めて知ったのが、オリーブオイルは他の植物油とは一線を画すものである。
他の植物油(大豆油、キャノーラ油、ヒマワリ油等々)が種子を絞って得られるものに対し、
オリーブオイルだけが、果実を絞って得られる。

種子から油を効率的に絞るには、一般的には工業的な過程(溶媒による抽出、中和、脱色・脱臭等)を経る必要がある。
そのため、種子油は良くも悪くも均質であり、多くはほとんど「油っぽさ」以外は無味・無臭だ。

だが、オリーブオイルは違う。
最もベーシックな方法は、果実を潰し、新鮮な果汁を絞り、自然に分離した水と油分から抽出するだけだ。
(そのため、ある程度の実が採れれば、自宅でも採油は可能。
我が家にもいつかを夢見て、オリーブの木が植えてある。)
そのためオリーブオイルには、元となったオリーブの品種、育った気候、採油の温度や手法によって、
多種多様な風味が本来備わっている。
本来、それを最も楽しめるのが、「エキストラバージン」という等級である、筈だ。
ところが、そうではない。

その理由を考える上で、本書で示された最も分かりやすいを例が、ワインだ。
実は、風土と品種、手法により異なる果実のエッセンスという点で、
オリーブオイルとワインは、全く同じ立場にある。
そしてヨーロッパ圏(南欧)において、日常的な食事に欠かせない液体として、どちらも大量の需要がある。

ただ、ワインは熟成によって価値が高まる。
一方、オリーブオイルは、新鮮さが最も重要である。
いずれにしても、需要を満たすほど、大量の供給を安定的に行うのは困難だ。

そこでなされたのが、偽装である。
例えばワインでは、1986年にイタリア北西部でメタノールが混ぜられ、26人が死亡、20人以上が失明する事件が発生した。
これによりイタリアはワインの規制を強化し、ワイン業界は大打撃を受けた。
だがこれによってワインは量から質に転換する。
ワインは常に産地と生産者が明らかとなり、ラベルと中味の不一致は無い。
そして現在のように、それぞれのレベルに応じた価格で、多種多様なワインが提供されるようになった。

一方、オリーブオイル。
その偽装は、低質な油や他種の種子油に、少量のエキストラバージン・オリーブオイルを用いるものだ。

混ぜる油は、例えば真のエキストラバージン・オリーブオイルを絞った残滓から、
工業的に抽出した「オリーブ・ポマスオイル」や、上記の種子油だ。
いずれもほぼ無味無臭であることから、そのオリーブオイルの風味が変質するほどではない。

また、「エキストラバージン」という等級も、かなり古く、幅広い。
具体的に制定されたのは1960年。
オリーブの果実から機械的に搾油されたのが「バージンオイル」で、
「エキストラ」という等級は、
不快な臭いがないこと、
例えば遊離化したオレイン酸の割合が0.8%以下であること、
過酸化物価が20以下などが基準とされている(数値は本書時点)。

ところが真面目なオリーブ生産業者に言わせれば、
「地面に5か月転がっていたオリーブでも遊離化したオレイン酸の割合が0.8%以下」で、
「本当のエキストラバージンを扱うなら、過酸化物価が12以上なら見向きもしない」という。

しかもオリーブオイルの難しいところは、偽装が最も進んでいるのが本家イタリアであり、
過去のしがらみの無い新興国(例えばオーストラリア)の方が、より真っ当な生産をしているという点だ。

上記の偽装についても、オーストラリアではDAGSやPPPと言われる検査方法により、
混ぜものや長期保存の有無をチェックできる、と主張している。
だが世界のオリーブオイルの基準を決めるべきイタリアが、その検査方法を採用しなければ、
偽装を根絶することはできない。

その結果、様々な国で、様々な時代に、様々な者が市販のオリーブオイルをチェックした結果、
真の「エキストラバージン・オリーブオイル」は1割以下、という事態に陥っている。

ワインはタンカーであちこちに運ばれるようなことはない。
瓶詰め前のボルドーワインがタンカーの液槽に入れられるなんてあり得ないし、
シングルモルトウイスキーだってそうだ。
それなのに、同じくらい上質で傷みやすいエキストラバージン・オリーブオイルだけは、
3000トンもまとめてタンカーに積み込まれて地中海のあちこちに輸送される。

それどころか、アメリカから輸出された種子油が、
イタリアで少量のエキストラバージン・オリーブオイルを混ぜられ、
「Made in Italy」のエキストラバージン・オリーブオイルとして戻ってることさえ、日常茶飯事という。

オリーブオイルは体に良い、というイメージが日本でも先行している。
また、既に食事の選択肢にイタリアンも定着しており、
外食・内食問わず、オリーブオイルの需要は極めて高くなっている。

だが、店で販売している「エキストラバージン・オリーブオイル」を、そのまま信用して良いのか。

オリーブオイルは、長い人類史において、他の動物性油脂とは異なる位置にあった。
特に地中海文化圏では、食だけでなく、まさに衣食住の全ての分野に必要なものだった。
ノアに元に戻ってきたハトが加えていたのは、オリーブの枝。それは単なる比喩以上のものを持っている。

それを正しく愛し続けることができるかどうか。
生産者や流通者の問題だけではなく、
「誰かが良いと保証してくれたものを、出来る限り安価に」というを消費者の姿勢にも問題がある。

日本では、 一般社団法人日本オリーブオイルソムリエ協会において、正しいオリーブオイルの知識の普及に努めているようだ(公式ホームページhttp://www.oliveoil.or.jp/)。
(ただし、僕はその活動実態を何らしらないので、興味がある方は自身で確認していただきたい。)
また同協会代表理事の方も、本書と同スタンスの著書を刊行している。
(「そのオリーブオイルは偽物です」)。
興味のある方は、どうぞ。

【目次】
プロローグ エッセンス
第1章 世界一の産地の苦悩
第2章 汚れた業界
第3章 聖なるオイルと悪魔のオイル
第4章 体が喜ぶオリーブオイル
第5章 工業生産されるオリーブオイル
第6章 オリーブオイル革命の萌芽
第7章 オリーブオイルのニューワールド
エピローグ 神話
オリーブオイル用語集
良いオリーブオイルを選ぶために
解説 オリーブオイル偽装は「対岸の火事」ではない
写真で見るオリーブオイル史


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