ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

現代社会に必須となった、新たなビジネス。「民間軍事会社の内幕」  

民間軍事会社の内幕 (ちくま文庫 す 19-1)
菅原 出



本書は、2007年に刊行された「外注される戦争」の加筆修正版として、2010年に刊行された。
それからも、既に6年以上が経過している。
恐らく既に状況は大きく変化しているだろうが、日本では全く馴染みのな無い民間軍事会社(PMC、private military company)がなぜ生まれ、いかに拡大しているかを知っておくことは、極めて重要だ。

誤解されがちだか、そもそもPMCは傭兵斡旋会社ではない。

戦闘という作戦は、もちろん正規軍が行う。
問題は、軍が戦闘行為を行うまでには、単純に舞台の移動、既知の設営が必要だ。
そして人がいるところ、これも単純に食料や廃棄物の処理、装備や資材の運搬も必要である。

食事一つとっても、食材、料理人が必要だ。食材もどこかから仕入れ、運搬する必要がある。
だがその運搬ルートは、最前線までの道である。どこに敵が潜んでいるかは、分からない。

また、最前線は正規の軍が対応するとして、
確保した後方の街では、誰が文官や事務担当者を守るのか。
場所は、戦時下の国。ガードマンでは役不足だ。

様々な圧力によって、軍の予算・人員は縮減されている。
かつては全て軍が対応できていたが、こうした後方支援に該当する部分にまで兵は避けない。
では、アウトソーシングではないか、という発想がある。

一方で、年齢や体力的な理由により軍を退職した者たちには、平和な社会では全く役立たないが、戦地では有用な知識と経験がある。

その能力を活かし、通常の会社とは異なる危機管理能力を備えて、戦時下の後方支援等を請け負う会社。それがPMCである。

本書は、そのPMCの成り立ち、イラク戦争における活動、
また優れたPMCだけでなく、杜撰なPMCによる弊害など、日本では殆ど報道されない事情を詳しく紹介してくれる。

例えば、民間会社であるということは、ニーズに敏感であり、かつ政治的な制約がないということだ。

そのため、人質解放交渉、紛争地で活動する企業の警備(保険とセットだ)、
様々な国の軍隊のスキルアップ訓練、紛争地で取材するメディア向けの危機対応訓練など、軍事会社という言葉から抱くイメージとは全く異なる活動をしている。

本書でもそれらの活動が紹介され、実際に著者がメディア向けの訓練を受けているが、その内容は非常にリアルな現実を見据えたもの。著者も語っているが、日本のメディアがこうした訓練を受けていれば、紛争地での取材はもっと価値あるものになるだろう。

「民間で軍事に関係するノウハウを提供する会社」というだけで、日本では毛嫌いされる可能性が高いが、
既に敵の攻撃を抑止・対処することだけが安全保障ではない。

テロリストの資金追跡、国境付近の人の通行管理、警察や裁判官の再育成、民主的な選挙の支援、
活動する企業等の警備、基地や難民キャンプへの物資輸送。

テロ・内戦・軍事干渉など、世界各地で問題が日々発生しているが、そうした荒れた地域を立て直すという「人道的な行為」は、もはや軍だけでは成立しない。国連からNGOまで様々な立場が関わる必要があるが、PMCもその一人なのである。

そう考えると、世界的にも稀な程に安全である日本において、PMCが正しく認識されていないことは、大きな問題だろう。

何も、軍の活動を想定せよと言っているのではない。
ODAによる紛争地への企業派遣。
紛争地でのNGOの活動。
災害によりライフラインが経たれた地での救援。
世界の報道すべき問題のある地域での取材活動。

実際のところ、そうした活動にこそ、PMCを上手く利用する必要があるし、PMCのノウハウを学び、日本的にPMCが生まれないかを検討する余地もある筈だ。

特に、各国で軍に対する人や予算は削減され続けている。そうすると、紛争地で真っ当に活動したいのなら、良いPMCを確保することが重要となる。

だが、日本、また日本のNGOにそのような対応が可能だろうか。
基地や活動拠点の設営・運営、資材の運搬などを一から十まで自衛隊やNGOが実施し、期待される役割も、本来発揮すべき能力も果たせないまま終わるのではないだろうか。

戦争反対というのは、素直に正しいと思う。
だが、そうした求めるべき未来と、今そこにある問題への対処は別だ。
PMCのような会社が成立し得る現実を直視しなければ、今後の安全保障は成立しないだろう。

【目次】
第1章 襲撃された日本人
第2章 戦場の仕事人たち
第3章 イラク戦争を支えたシステム
第4章 働く側の本音
第5章 暗躍する企業戦士たち
第6章 テロと戦う影の同盟者
第7章 対テロ・セキュリティ訓練
第8章 ブラックウォーター・スキャンダル
関連記事
 このエントリーをはてなブックマークに追加

category: 戦争

thread: 読んだ本の紹介 - janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://birdbookreading.blog.fc2.com/tb.php/747-3cad512e
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

中の人

アクセス

RSSリンクの表示

最新記事

カレンダー

アクセスランキング

月別アーカイブ

ブロとも申請フォーム