ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

脳の損傷が、脳の秘められた謎を示す。「奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき」  

奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき
ジル・ボルト テイラー



様々な病があり、様々な人がいる。
時に、その病(またはその器官)の専門家がその病に罹ることがある。
そして、専門家であるが故に、語り得る「病状」がある。

例えば、本ブログでも紹介しており、おそらく多くの方にも読まれている本として、「医者が末期がん患者になってわかったこと」(レビューはこちら)がある。
残念ながら回復することはかなわなかったが、遺された本書は、多くの方の参考になっているだろう。

本書は、若く優秀な脳学者として活躍していた著者が、
ある日突然(認識していなかったが、時限爆弾のような先天的な血管異常があった)脳卒中を起こし、
左脳を損傷してしまう。

様々な偶然や幸運があり、何とか助かったものの、
血管が破裂した瞬間から、思考能力や言語能力はどんどん失われていった。
本書では、その強烈な体験―恐らく多くの人が体験したことがなく、体験した時は生死がかかっている―を追体験することが可能だ。
それだけでも、脳卒中の症状の一つを知り、自分自身や、周りの人が「万が一」の際に、
少しでも理解し、行動する助けとなるだろう。

また、治療から回復に至るまでの過程において、
脳卒中患者が何を必要とし(著者は脳を休めるために、とにかく睡眠が必要だったという)、
どのように尋ね、どのように接するべきかのヒントも得られる。

一般の患者のように、部屋を明るくすることが必要なのか。
外界に膨大に溢れている様々な情報―音、文字、匂い―が負担ではないか。
その患者の脳機能の損傷を知るうえで、 質問の方法や回答までの時間は妥当なのか。

脳の損傷個所により、おそらく態様は様々なのだろうが、
だからこそ、本書のようなケースブックを読み、その患者が最も必要な状況を生み出すことが重要なのだろう。

さて本書は、ほぼ前半はそうした闘病記のスタイルであるものの、
その脳損傷の部位によるためか、著者自身の様々な「右脳体験」も語られている。
というか、本書後半は、そうした右脳生活への賞賛ともいうべきスタイルとなっている。

脳卒中より左脳を損傷した著者は、その直後から右脳のみがフル活動し、
自身や世界を認識するうえで、左脳によるフィルター・制限が解除された状態となった。
そこで体験したのは、
自分と自分以外の境界が消滅した結果の宇宙との一体感、
「現在」だけにフォーカスをあてる幸福感だ。
おそらく多くの方が似たような言葉で表現すると思うが、いわゆる「悟り」「解脱」「涅槃」といった境地である。
こうした体験を引き起こす能力が右脳に秘められているという事実を明らかにした点で、
おそらく本書は他の闘病記と一線を画すものだろう。

だが一方、こうした境地を体験した著者は、左脳による現実認識(過去と未来の認識や、
自分と他者との乖離感)を回復した現在も、「パワフルな右脳生活」の伝道者となっている。

(例えばTEDでも、著者による講演がある。)
ジル・ボルト・テイラーのパワフルな洞察の発作

こうした境地が、人々の脳の中に潜在的にある、という事実を示した点において、著者の体験は極めて価値があるだろう。

ただし、その右脳礼賛ゆえに、本書は、左脳の能力が無用であるとか、宗教的な境地こそが唯一のゴールであるかのように、極端な誤読や誤用がなされる懸念がある。

まずは脳卒中という自分や周囲の人がいつ発症するか分からない病について、
その当事者ならではの体験をしっかり知る機会として、本書を読みたい。


【目次】
脳卒中になる前の人生
脳卒中の朝
助けを求めて
静寂への回帰
骨まで晒して
神経科の集中治療室
二日目あの朝の後で
GGが街にやってくる
治療と手術の準備
いよいよ手術へ
最も必要だったこと
回復への道しるべ
脳卒中になって、ひらめいたこと
わたしの右脳と左脳
自分で手綱を握る
細胞とさまざまな拡がりをもった回路
深い心の安らぎを見つける
心の庭をたがやす

▼未読。この方は、また別の影響が出たようだ。

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category: 医学

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