ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

生粋の研究者が、昆虫少年に戻った。「ホソカタムシの誘惑 第2版: 日本産ホソカタムシ全種の図説」  

ホソカタムシの誘惑 第2版: 日本産ホソカタムシ全種の図説
青木 淳一



著者青木淳一氏は、日本におけるダニ類研究の第一人者、だった。
特に、土壌中で腐食質を餌とするササラダニ類という、目立たないが非常に重要な分類群については、450種以上の新種記載を行っている。
ダニに関する書籍も多く、例えば「ダニにまつわる話 (ちくまプリマーブックス) 」(レビューはこちら )は、そのダニ研究史の過程で起こった様々なトピックスを紹介するものとして、楽しい。

また神奈川県立生命の星・地球博物館長としても活躍し、生き物を調べる「博物学」の楽しさも普及。
博物学の時間: 大自然に学ぶサイエンス」(レビューはこちら)では、その面白さを紹介している。
この本の中で、退職と共に、標本と文献を全て国立科学博物館、横浜国立大学、宮城教育大学に分散して寄贈して全てを後進に委ね、昆虫少年に戻ったという記述がある。

昆虫少年に戻った青木氏が手がけたもの。それは、50年以上前に夢中になったホソカタムシだ。
ホソカタムシとは細くて堅い虫。体長はおおむね2.5mm~5mmといった小さな虫で、枯れ木についた菌類やキクイムシの幼虫などを捕食する。
その習性から、葉が全くない枯れ木に生息している、という。

そして、ササラダニ研究の第一人者になるような極めて学究的で着実な人が、
本気でマイナーな分野の昆虫採集を手掛けたらどうなるか。
その結実が、本書である。

ホソカタムシとは何ぞや、から始まり、
1部では、著者のホソカタムシへの愛情、
再開したホソカタムシ採集によって培われた発見法・採集法の数々、
標本作成法(普通の昆虫標本だけでなく、ホソカタムシ研究のために必要なプレパラート標本の作製法)、
本書でも収録されている細密画の作画法、そして仲間であるホソカタムシ愛好者のエピソード、採集記が収録されている。
ホソカタムシを見つけ、探し出し、研究する楽しさとルートが余すことなく記載されていると言えるだろう。

そして2部。日本産ホソカタムシのリストから始まり、
各種の細密画、解説、日本における分布図(記録がある地点を●でプロット)、そして特徴的な分布をしているホソカタムシの分布状況を収録。
こちらは、刊行当時のホソカタムシに関する知見のほぼ全てを網羅しようという意気込みに溢れている。

もうこの一冊だけで、ホソカタムシが宝の虫のように感じてしまうのは、僕だけではあるまい。
本書が、ホソカタムシという極めて地味な虫の本ながら、「第2版」まで出ているところが、その凄さを示しているのだろう。

たった一冊の本で、ある分類群に対する知見の到達点を纏め上げる。
それだけでも大変なのに、その虫を追う楽しさ、魅力まで伝えてしまう。
非常にマイナーな分野だが、これほど知的な楽しさに満ちた本も、なかなか無い。

【目次】
1部 ホソカタムシの採集と研究の楽しみ
 ホソカタムシに関するQ&A
 ホソカタムシの魅力
 ホソカタムシの研究法
 採集日記から
 ホソカタムシ採りの達人たち
2部 日本産ホソカタムシの分類と分布
 日本産ホソカタムシの種名リスト
 日本産ホソカタムシ図集
 日本産全種の解説
 日本産ホソカタムシの分布図
 日本列島におけるホソカタムシの分布状況


関連記事
 このエントリーをはてなブックマークに追加

category: 昆虫

thread: 読んだ本の紹介 - janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://birdbookreading.blog.fc2.com/tb.php/735-2bb96993
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

中の人

アクセス

RSSリンクの表示

最新記事

カレンダー

アクセスランキング

月別アーカイブ

ブロとも申請フォーム