ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

ヒトの進化を考える契機として。「親指はなぜ太いのか―直立二足歩行の起原に迫る」  

親指はなぜ太いのか―直立二足歩行の起原に迫る (中公新書)
島 泰三



なぜヒトはヒトに進化したのか。
そう問える存在も、地球上ではヒトのみだ。
であるからこそ、この謎は極めて大きく、魅力的だ。

この謎に挑む武器としては、発掘された初期人類の化石、石器、
同時期の環境復元などのほか、最近はDNAという新しいアプローチも可能となった。
そうした様々なアプローチの一つとして、著者はマダガスカルに生息するおける原猿類の生態・形態を手掛かりとした。
その観察から得た仮説は、

 種形成の根本原理は、独自の主食を開発し、他の種と食物を別にする「食べ分け」であり、 これを霊長類に適用した場合、主食が手と口の形を決定する


というもの。これを著者は「口と手連合仮説」と名付けている。
ここから、移動姿勢もこの「口と手連合仮説」によって特殊化した手の制約により変化すると見ているようだ。

この仮説について、著者はマダガスカルにおける原猿類で確認し、以降、世界の真猿類にも適用できることから、そこから原始人類に進化する直前の類人猿にも適用可能だろうと推測する。

その結果、著者は初期人類はサバンナにおける「ある硬いモノ」を主食とすることに特化した霊長類であり、
それ故に、その「ある硬いモノ」を砕くための「極めて硬い歯」を持った。
また、「ある硬いモノ」を砕くために石を握る必要があり、親指が太く変化。
そして手が道具を持つため、二足歩行となった、という結論に至る。
(「ある硬いモノ」が何かは、ちょっと調べると分かってしまうが、本書を読む楽しみの一つなので、あえて伏せる。)

正直、なるほどと感じる反面、首を傾げる部分も少なくない。

まず、「口と手連合仮説」だが、
主食がダイレクトに口と手の形態を決定する、と最初は論じながら、
途中で、その主食を手に入れるために移動する方法によって、手の形態が決定される、ともしている。
すなわち、主食→移動方法が決定→手の形態が決定、となる訳だが、このような間接的な要因をも
「口と手連合仮説」の論証として良いのか。
広義では確かにそうだけれども、生物の種が繁栄するためには、少なくとも
・他個体より効率的に餌を入手し、自身の生存率を高めること
・他個体より効率的に繁殖し、繁殖率を増加させること
の2点が必要だろう。(正確な理論ではなく、あくまで僕の思いつきに過ぎないが。)
すなわち事実上、生殖器以外の形態の決定には、間接的に主食が影響している筈だ。

「手」らしい「手」は、霊長類にしか存在しない。
その霊長類において、著者自身が、移動手段のため形態が決定したことも含めているため、主食がダイレクトな決定要因とは言い難い。

また、全ての(口がある)生物種においては、むしろ、「口の形態が主食に左右されない」というケースの方が考えられない。
(主食に左右されないのなら、口は何に適応していくのか。)
だから、あえて「口と手連合仮説」とせずとも、それは自明の理なのではないだろうか。

また、著者が示す「ある硬いモノ」を主食としたことによる理論展開について。

有りえる話とも思う一方、ちょっと考えたら別のケースも想定できるのではないか。

例えば、水棲のサル=「アクア説」の是非は置いとくとして、初期人類の狙である類人猿が、主食として、淡水湖なり海の水生生物を選択したと仮定する。魚でもエビでも貝類でも良いが、量と捕りやすさからして、魚か貝としよう。
これを捕獲するには、水際に入らなければならない。ここでまず、息をするため上半身を起こす姿勢が増加する。
また、獲物を捕獲しても、水際で大量に喰うことはできない。落としたり、外敵に襲われる可能性もある。
だから獲物を陸地の安全な場所まで運ぶ必要があるが、大量に持とうとすると、手に持つしかない。
手に獲物を持てば、ナックルウォーキングや四足歩行は不可能。
また、より早く、大量に獲物を運べる個体が有利となる。
よって、二足歩行に長けた個体が生き残った。
さらに、獲物の一つである貝は、それを喰うためには石を用いる。だから親指が太くなった。
また、小魚の骨や、カニのキチン質を砕くために硬い歯が発達した。
こう考えると、著者が示す「ある硬いモノ」を主食とせずとも良い。
また「硬い歯」も、主食による形態決定ではなく、長寿命化に対応した歯の延命と考えることもできる。

妄想の域を出ないが、結局のところ、著者が示す「ある硬いモノ」を主食としたことによる理論展開も、こうした発想の一パターンと言える。

「口と手連合仮説」 はともかくとして、もちろん、大陸移動説の例もあるため、著者の「ある硬いモノ」を主食としたという進化説が正しい可能性も有り得る。
そうした思考実験として、本書は楽しみたい。

なお、わりと著者が、他の研究者に言葉は悪いが長時間つきまとって議論したり教えてもらうシーンが散見される。
大学や研究機関に属さない人による研究を否定するつもりは全くないが、
だからこそ同じ研究者として、
相手の研究者としての時間や業務に配慮した行動をすべきでは、と感じた次第である。
チンパンジーの群れの中で、いつも通り秒刻みの行動をテープレコーダーに吹き込んでいる研究者に同行して、
その最中に(ゆとりがある時間だったにせよ)、質問を続けるというのはいかがなものか、と感じた。

【目次】
第1章 アイアイに会うために
第2章 レムール類の特別な形と主食のバラエティー
第3章 アフリカの原猿類の特別な形と主食
第4章 ニホンザルのほお袋と繊細な指先
第5章 ナックル・ウォーキングの謎
第6章 ゴリラとオランウータンの謎
第7章 初期人類の主食は何か?
第8章 直立二足歩行の起原
終章 石を握る。そして、歩き出す
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