ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

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これ、高校日本史で教えるべきだ。「図像学入門 疑問符で読む日本美術」  

図像学入門 疑問符で読む日本美術
山本陽子




美術・芸術作品については、様々なカテゴライズがある。
地域性、時代性、具象・抽象、絵画・書・彫刻等々。
それぞれのカテゴリはもちろん重要なのだが、これらの基盤において、
おそらく非常に単純なカテゴリがある。
実用か否か、だ。

近年の芸術作品は、その生産時点で、既に作者が「芸術」と意識している。
「作家」という言葉と、「作品」という言葉が指し示すように、
外界の様々な価値観とは異なる次元の「何か」がある。

だが振り返ってみれば、現在様々な美術館に収蔵されている歴史的な美術品の大半は、
その創作時に生活から切り離された「芸術」とは意識されていなかった。
生活的な装飾、宗教的なシンボル。いずれにしても実用面が必ず存在した。

単純例でいえば、仏像は「拝む」ものであり、「観賞」するものでは無かったということだ。

ところが現在、「作品は観賞するもの」という大前提が無意識下にあり、
美術館に展示された仏像は「観賞」対象である。
(それでも「拝む」人もいるが、それこそ目前の仏像を美術品ではなく実用品と捉えている証拠だ。)

そのため、その「美」を理解することに夢中になってしまう。

だが仏像やら歴史的な絵画が実用品であったという前提を踏まえれば、
その実用的な意味を知らなければ、そのモノの全てを理解できないだろう。

西洋絵画では、やはり実用としては宗教絵画が多いが、
その理解の一助となるのが聖人の属性(アトリビュート) である。

それぞれの聖人の伝説にちなみ、聖人とあわせて描かれる属性(アトリビュート)は、
例えば「皮を剥がれた聖人バルトロマイ」だと「皮剥ぎナイフ」がアトリビュートである。
そのアトリビュートを描くことで有り難い聖人画として成立し、
人々はそのアトリビュートにより、有り難さを理解する。

(アトリビュートについては、「聖書と神話の象徴図鑑」(レビューはこちら)や、「名画でたどる聖人たち もう一つのキリスト教世界」(レビューはこちら)に詳しい。)

では、日本ではどうなのか。
歴史時代から残る様々な図像や仏像。
例えば様々な釈迦像、仏像、曼荼羅図、絵巻、山水画や花鳥画、そして浮世絵。
どれも日本美術の象徴として誰もが知っている逸品も、制作当時はもちろん実用品であった。

とすれば、どのような実用性があり、その作品に活かされているのかというのが、
現代の美術教育で欠落している部分である。

源氏物語絵巻を見る。「なぜ引目鉤鼻なんだろう?」
洛中洛外図を見る。「なぜ京都の図が多いのだろう?」
浮世絵を見る。「どうして江戸時代に流行ったのだろう?」

こうした疑問に対する回答は、決して作品鑑賞という姿勢からは得られない。

本書は日本美術史を代表する様々な作品について、こうした素朴な-けれども根源的な-疑問に答えるべく、
その「意味」を解説していくものだ。
1テーマにつき4頁程度と短いながら、バックグラウンドにある情報量は非常に多い。
その作品が生み出された時代、人々がどのよう生活し、何を願っていたかが垣間見えるような、
まさに「納得できる」作品解説である。

残念なのは、数多くの作品が引用されながら、それらが白黒であることだ。

個々の作品の色の重要性が解説されながら、それらがカラーで見られないのは本当に勿体ない。
コスト面の割り切りだろうが、こうした良書は何度も刊行できるものではない。
版元には頑張ってカラー出版(もしくは少しでもカラー口絵で)していただきたかったところである。

それにしても高円寺の鳥獣戯画、撰漕ぐ時代の修復や、
あまりに良いので多くの人が借りては抜き、それで元の絵や順序が分からなくなったというのは、
申し訳ないが面白い話である。
これに懲りた高円寺が、各紙の境に印をバンバン押しているのだという。
そんな話を知れば、鳥獣戯画の印一つでも楽しめる。


【目次】
まえがき
第1章 釈迦の生涯─仏像の基本
 どこまでホント?
 こんなみじめでいいの?
 こいつら何してるの?
 ルール違反じゃない?
 死んだ釈迦の何が面白い?
第2章 仏像の種類─4つのタイプ
 観音は女じゃないの?
 えらいのは釈迦だけじゃないの?
 女だって戦士だっているじゃないか!
 どうしてホトケが悪ガキに?
第3章 曼荼羅─密教世界の地図
 なぜ密教の世界地図が二つあるの?
 これでも曼荼羅か?
第4章 六道輪廻と浄土―人は死んだらどこへゆく?
 浄土を実感するためには?
 なぜ阿弥陀はキンキラキンか?
 どうしてこんなにおぞましい?
 それにしても悪趣味じゃない?
第5章 神々のすがた
 姿のない神をどう表すか?
 どうして風景を拝むのか?
第6章 人のかたち―肖像と似会
 聖徳太子はスーパーマン?
 怖いならどうして祀る?
 似顔絵描いてどこが悪い?
 不細工な顔のどこがイイ?
 この乞食は誰?
第7章 絵巻物―物語を絵にする
 女絵とは何か?
 なぜあんな顔?
 なぜ右から左へか?
 どうすれば時間を描けるか?
 絵巻はマンガか?
 絵巻のセリフはどうするか?
 鳥獣戯画は何のため?
 どうして付喪神が絵巻に?
 江戸時代の絵巻はなぜつまらない?
第8章 山水画と花鳥画―神仏でも人でもないもの
 なんで色を塗らない?
 春夏秋冬が一度にある!
 戦国大名になぜ必要?
 なぜド派手?
 こんなものどこがすごい?
 主人公はどこ?
 下手な絵がなんでイイ?
第9章 浮世絵
 美人画はどのようにお求めやすくなったか?
 誰のおかげでカラー化した?
 美女のタイプは不変か?
 役者絵はどこまで似ている?
 ゴッホはこの絵のどこが好き?
 武者絵はなぜあんな顔?
第10章 西洋絵画と日本
 写生画のどこが写実でないか?
 なぜ鮭か?
 裸体を描いてどこが悪い?
 意味がわからなきゃだめ?
あとがき・転載図版一覧
ついでのはなし(その1~その15)
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