ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

生還者だからこそ伝えられる、生き延びるための努力と運。「御嶽山噴火 生還者の証言 あれから2年、伝え繋ぐ共生への試み」  

御嶽山噴火 生還者の証言  あれから2年、伝え繋ぐ共生への試み
小川 さゆり



御嶽山の噴火。
日本は火山列島だと知っていたが、少なくとも僕は全く想定外の出来事だった。
浅間山や桜島のように頻繁に噴煙が上がる、文字通りの「活火山」ならともかく、
見た目は殆ど他の山と異ならない「活火山」が噴火するということは、なかなか考えにくい。

登山者の間で、どこまで常識となっているのかは知らないが、様々な本や情報で知る限り、やはり自分が登ろうとしている山が噴火する可能性を、登山のたび真剣にチェックする人は少ないようだ。

もちろん火山の警戒レベルは公表されるし、警戒レベルの引き上げによる規制もなされる。

しかし、それで全ての危険が回避できるわけではないという事実を、御嶽山は明らかにした。
それまで当然だった、「本当に危険なら、誰かが情報をチェック・検討・規制してくれるはずだ」という認識は、実際には成立しない。

もちろん関係機関ごとに果たすべき役割と責任はあるが、やはり自らの安全は、最終的には自身が能動的に確保しなければならないだろう。

本書は、御嶽山の噴火時、頂上直下にいて生還した山岳ガイド、小川さゆり氏によるものだ。
(最初に明記しておくが、小川氏し当時ガイドをしていたわけではない。
 自身のガイドの下見として単独行をしていた中での遭難であり、他の登山者と立場は何ら変わらない。
 そしていかなる経験があっても、噴火という未知の状況下で、安易に他人の命を預かることはできないだろう。)

当時者にしか分からない極限状況。
突然の爆発的噴火。火山性ガスにまかれ、噴煙により視界喪失、そして火山灰による呼吸困難。
その中を高速で飛び交う、巨大な噴石。

噴火直後から、被災者は何を感じ、何を理解し、どう行動したのか(もしくは、しなかったのか)。
もちろん一人一人異なるものの、小川氏のように生還者が語ってくれなければ、到底僕らには想像できない。

そして極限状態を生き延びた小川氏は、その生死について、
運だけでは生き残れない。しかし、技術や判断だけで生き延びることはできず、やはり運も必要であると語る。

生き延びる努力を、可能な限り早期に行わなければ、掴めるはずの運も逃げてしまう。
小川氏が本書で使っているわけではないが、おそらく「人事を尽くして天命を待つ」ということだろう。

ただ残念ながら、小川氏も指摘しているように、噴火という極限状態において、
どのような行動が「人事を尽くす」ことなのかという、今後の被害を防止するために最も重要な検証が不十分な状況にある。

確かに、こうした災害において、生存者と犠牲者の行動を比較し、その生死を分けた要因を探るということは、
一方で犠牲者の落ち度を探ることにもなりかねない。

だが、犠牲者に何ら非がなく、まさに人事を尽くしていたとしても、こうした現場では「運」が生死を左右することも、小川氏が指摘する事実だ。

生存者を持ちあげるのではなく、また犠牲者を貶めるものでもない。
淡々と、今後に活かせるファクターを検証するという冷静な視点が、様々な事件・事故において、日本では不足している。

もっと予測精度を上げろ。
行政がもっと注意喚起しろ。
シェルターを設置しろ。
ヘルメットを義務付けろ。

いずれも単純明快な改善策だが、そもそも、それが実際に生死を分けたファクターなのか、
それが「人事を尽くすこと」なのかという検証がなされていない。

これでは、御嶽山の悲劇は、何ら教訓にならないのではないか。
そうした切実な思いが結実したのが、本書である。

同じく御嶽山で被災し、左腕を噴石によって切断した女性がいる。
自力では下山できなかったが、幸い翌日に救助されたようだ。
標高3000mを超え、夜間に急速に気温が低下する中で、左腕離断という重傷を負いながら生き延びたのは、
持っていたツエルトとダウンジャケットのおかげという。
「山に行く場合は、万一に備えた装備を」と、良く言われるが、まさにそれが役立ったというわけだ。
これが「人事を尽くす」の一端ではないだろうか。

災害の現場では、他者に頼ることはできない。
ガイド、医者、様々な役職・立場の人がいるが、同じ災害現場に同時に放り出された時点で、
誰もが被災者である。
自らの身を守ることもすら危うい中で、他人を助けることはできない。
また、人それぞれだろうけれども、
少なくとも僕が被災者であり、今まさに危険が迫っている中で、
目の前の同じ被災者である人間に、自らの安全確保のための判断・行動を全て委ねるなど、恐ろしくて出来ない。

既に日本では、いつ、どこで、どのような災害に遭遇するか分からない時代に突入している。
「人事を尽くす」 とはどういうことで、
自分には、家族には、どこまで可能なのか。
それを知っておくことが防災だと思うが、そうした冷静な報道はあまりにも少ない。

【目次】
第1章 運命の一日(絶好の登山日和
十一時五十二分、一回目の噴火 ほか)
第2章 噴火の実態(御嶽山という山 ほか)
第3章 噴火の爪痕(困難を極めた捜索活動
取材と報道、伝えることの大切さ ほか)
第4章 噴火の教訓(生還できた理由
正常性バイアスと多数派同調バイアス ほか)
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category: 災害

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