ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

なぜ、生物だけが進化できるのか? 「生命のからくり」  

生命のからくり
中屋敷 均



生命とは何か。
そもそも、どうやって単なる有機物の固まりが自己完結的な挙動を行うようになったのか。
また、その有機物の固まりが、どうやって複雑な機能を持つようになったのか。
前者は生命誕生の問題であり、後者は進化の問題である。
そして本書は、後者の進化に焦点をあてた一冊だ。

進化の細かなメカニズムについては諸論があるが、
少なくとも地球上の生物については、長い歴史において、時々の環境に適した生物に「進化」していく、という方向性にあることは、基本的な科学的見解として同意がある。

では、「なぜ生物のみ進化が可能なのか」というのが、突き詰めるところ本書のポイントである。

鉱物にしても、結晶化という秩序化はある。だがそれを進化とは呼ばない。

生物進化のポイントは、「その時々の環境に対して適応的」であるという点である。
この場の覇者は、この環境における最適解に過ぎない。
過去や未来といった時間差は言うに及ばず、
同時代であっても、その生物種の移動範囲を超えた地においては、その在り方が最適解とは限らないのだ。

そのため、それぞれの生物は、自身の子孫を次代の覇者に変革しなければならない。
だが一方で、せっかく現時点の覇者となっているのに、不要な変革を行えば、自身の子孫は覇者でなくなる可能性もある。

このジレンマを解消する策が、自身の遺伝子レベルにおいては、「情報の保存」と「情報の変革」という相反する二面性として現れる。
そして生物は、それを可能とするシステムを創りだし、自身とほぼ近似の遺伝子を有する生物を産む一方、
突然変異が生じた生物をも誕生させることが可能となった。
一つの種において、複数の個体がこのような「元本保証された多様性の創出」が可能であれば、
環境が変わない限りは突然変異のない子孫が、環境が変われば突然変異個体の中から適応的な個体が有利となる。

これを可能とするため、生物は複雑なDNA複製様式(一方のDNAの複製はいわば順列的に行われるが、一方は断片的に行われる)、有性生殖、ゲノムの倍数化などのシステムを獲得している。

これはいわば、「無数の偶然から幸運を選び、自動的に蓄積するシステム」である。
その要は、「情報の蓄積システム」だ。
過去の変革を保持しながら、その上に新たな変革を行うことが可能だからこそ、次世代は0からスタートする必要が無い。

そして、ヒトは、その個体が一生の間に蓄積した脳情報を「文字」として蓄積することで、
次世代に引き継ぐことを可能とした。
すなわち情報をDNAに刻んで変革するのではなく、外部媒体に刻んで変革していくのだ。
それがヒトと他生物を分けた境界である。

本書は生命発生や各個体間の競争システムには全く触れていないが、
「なぜ進化が可能なのか」という点について明晰な論理を示すと共に、
なぜヒトだけが突出して「適応的」なのか、という点についての解をも示している。

新書という手軽なスタイルでありながら、
大局的な見地から進化を理解できる、知的冒険に溢れた一冊だ。

【目次】
序章 生命の糸・DNA
第一章 生命と非生命
第二章 情報の保存と絶え間なき変革
第三章 不敗の戦略
第四章 幸運を蓄積する「生命」という情報システム
第五章 生命と文明
終章 絡み合う「2本の鎖」
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