ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

「見る」は、当たり前ではない。「どうしてものが見えるのか」  

どうしてものが見えるのか (岩波新書)
村上 元彦



「眼」の発明・存在が、生物進化を爆発的に促進させたという「眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く」(レビューはこちら)
は、衝撃的だった。
まるでコロンブスの卵のような、「言われてみれば確かに」という説だが、エポック・メイキングな説とはこういうものを言うのだろう。

その「眼」、生物により構造・見え方が様々であり、
多くの生物が、人間に見えない紫外線領域を視ている。
また一方で、ヒトは用いていない構造色による発色を用いる生物が多いことを知ると、
いやはや地球の生物は、「視覚」の生物なのだなと痛感する。

紫外線、構造色、眼の進化など、この分野は良書も多いが(末尾に紹介している)、
本書は、その「眼」そのものについて、その構造を大から小まで、それこそ細胞以下のレベルまで説明するものだ。

例えば脊椎動物は「カメラ眼」だ、というのは様々な本で説明されている。
だがカメラ眼は、光が空気中から角膜に入る際に大きく屈折させ、それによって焦点をあわせている。
そのため、屈折率が変わってしまう水中では、像が歪んでしまう。
(だから、水中ゴーグルで空気の層をつくれば、正しく見える。)

では、カメやラッコ、ウなど、水陸両用の生物の「カメラ眼」はどうなっているのか。
実は瞳孔括約筋が非常に強力で、水晶体前部を無理やり歪め、上から見ると、眼球を西洋梨みたいな形にしてしまう。
これによって屈折率をあわせ、水中・陸上でもピントが合うのだ。
水中と空中を同時に見るヨツメウオに至っては、もっと眼が歪な形になっており、
それによって屈折率の異なる世界を認識できているらしい。
ちなみにペンギンはこうした構造をもってなくて、水中に適応した眼になっているため、地上では近視という。

また、ヒトの眼は明暗を感知する桿体と、
色を感知する青錐体・赤錐体・緑錐体によって成立しているが、
本書によると次のように進化したという。
・約5~6億年前 青錐体の祖先にあたる構造と、赤錐体と緑祖先にあたる構造
・4億年前 青錐体の祖先から桿体の祖先が発達
・約2000万年前に 赤錐体と緑錐体が分化

これに対して、「サルの小指はなぜヒトより長いのか: 運命を左右する遺伝子のたくらみ (新潮文庫)」(レビューはこちら )では
・まず明暗を感じるロドプシン
・約7億年前 ロドプシンから青オプシンが分化
・約3億年前 赤オプシンか緑オプシンができる
・約3000万年前 赤オプシンか緑オプシンの残りができる
ができたらしいという(オプシンは錐体に含まれるタンパク質)。

桿体のできる順番、赤・緑錐体の祖先にあたる構造のできる時期など一部不一致があるが、
本書が1999年刊行であることを踏まえ、研究時点の認識差と考えるのが妥当だろう。
いずれにしても、現在の色覚は、
約3000万年前に赤と緑を認識できるようになったことにより確立されたことになる。
この
緑・赤オプシンに関わる遺伝子(便宜上赤色遺伝子と緑色遺伝子)は、
同じ祖先から分化したために、同じX染色体上にある。

ここで、この赤・緑遺伝子に異常があった場合、これは 伴性劣性遺伝する。
たとえば正常なX染色体を大文字X、異常なX染色体を小文字xとすると、
女性はXx xX xx XX が有り得るが、xxのみが遺伝子異常として発現する。
一方男性は、XY xYのいずれかが有り、このうちxYが遺伝子異常として発現する。
よって、男性に高率に発現することになる。

ただ、だからといって色覚異常-カラー・ブラインドネスの人が、
どこまで日常生活に制限を要するかは別の話であり、
例えば著者は赤緑色覚異常のみで学校・就職等に不当な制限が課せられすぎている、と指摘する。
また、赤緑色覚異常検査は実際には遺伝子検査であり、それを安易に行うことにも疑義を表している。

さらに、「サルの小指はなぜヒトより長いのか: 運命を左右する遺伝子のたくらみ 」によると、
むしろ女性の中には色覚に必要な物質が通常の3種類ではなく、4種類ある人がいることがわかっている(X染色体が2つあるために、一方に異常があると逆に色覚のバリエーションが増える)こと、
その場合、この赤オプシンが増え、もしこれが色覚に反映されれば4色覚に成り得る(実際にいるかは未確認)と言うことを紹介している。
そうすると、もし3色覚より優れた4色覚の人がいれば、その人は「異常」なのか、という疑問が湧く。

味覚にあっては、感知能力の個人差はさらに大きく、
人類の1/4は味覚が敏感な、超敏感舌であるもいう(「迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのかレビューはこちら )。
(苦みに敏感で、甘味への感受性も唐辛子への反応も普通の2倍高い。)

結局、正常・異常というよりは多数・少数の問題かもしれない。


話が本書から大きくそれた。
本書は眼の構造について、非常に細かく、各細胞の構造、
そして光量子が感知されたあとの神経伝達メカニズムまで紹介している。
正直、後半からは非常に細かく専門的な世界となり、かなり読むのに力がいるところ。
だが、「眼」という不可思議かつ、地球生命の要ともいうべきモノについて、
真っ正面から解説してくれる数少ない本だ。

刊行年度は古いものの、眼について学ぼうとするとき、
まず読んでおいて損は無い一冊である。

【目次】
1 眼はどのようにできるているか
2 網膜―精巧な神経のネットワーク
3 視細胞―光を電気信号に変える
4 色を見分けるしくみ
5 視物質タンパク質の構造
6 網膜の神経細胞のはたらき
7 脳はどのように視覚情報を処理するか
8 色覚異常について
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