ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

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「日本の恐竜学」は、新たな時代へ。「ザ・パーフェクト―日本初の恐竜全身骨格発掘記: ハドロサウルス発見から進化の謎まで」  

ザ・パーフェクト―日本初の恐竜全身骨格発掘記: ハドロサウルス発見から進化の謎まで
土屋 健,小林 快次,櫻井 和彦



「ザ・パーフェクト」。一言で全てを表す俊逸なタイトル。
科学系のドキュメンタリー、特にテーマが恐竜となると、日本でなぜか「親しみやすさ」が優先される。
だが、本書の佇まいは違う。
子ども向けではない装丁に、本書執筆陣・関係者の、この発掘に対する自負が感じられると言うのは、僕の考えすぎだろうか。

近年、特に日進月歩の歩みを示している恐竜学。
だがそれは、中国など新たな海外の発掘地における化石などが契機となっている。

その中で、本書で取り上げられた発掘は、確実に「日本の恐竜学」におけるエポックメイキングな出来事だ。

この発掘を成し遂げたことで、日本の恐竜学は確実に一段階進んだ。
その全貌が、この一冊に凝縮されている。

2003年に愛好家が採集し、当初はクビナガリュウの化石を含んでいると考えられ、
博物館に寄贈されていたノジュール。

だが2011年、一部をクリーニングしてクビナガリュウ研究者が確認したところ、
それは恐竜の化石であることが判明。
運よく、世界的にも評価が高い恐竜化石の専門家である小林快次氏が北海道で勤務していたことから、
急ぎ同定を依頼したところ、ハドロサウルス科の化石と判明。
クリーニングを進めると、各骨が連結したままの尾椎骨の塊が現れた。

「この状態の良さ、発見状況から考えて、全身骨格があるはずだ。」

そう考えた関係者は、行政・大学・博物館等々を動かしながら、大規模な発掘に着手する。
その結果現れたのは、頭部も含む「パーフェクト」な恐竜化石だった。

恐竜化石など日本で見つからないという印象があるが、部分的なものは、かなり各地で見つかっている。
今夏、「トクシマ恐竜展2016」があったが、その会期中にも徳島県で「竜脚類ティタノサウルス形類」の歯の化石が見つかっている
だが、全身化石となると難しい。

また今回の化石は、山奥の沢筋の極めて硬い岩盤中に、ほぼ垂直な形で埋もれていた。
恐竜化石の発掘例自体が少ない日本で、海外では有りえない状況での発掘。
その関係機関との調整、現場での発掘テクニックなど、全てが手探りだった。

化石も稀なら、発掘作業も稀。
それを成し遂げたということは、素晴らしい偉業なのだ。

その経緯を、各関係者に直接取材し、
自身も地学専門の学徒として、若い頃に北海道でアンモナイト発掘を行っていた著者が記す。
陣頭指揮を執るのは、世界を舞台に活躍し、日本における恐竜学を牽引する小林快次氏だ。
この体制もまた、パーフェクトと言えるだろう。

本書の構成は、単純な発見→発掘と時系列を追うものではなく、
インタビュー等を踏まえ、各時点における最も重要な関係者ごとに、一章をあてている。
発見者の章。
寄贈された博物館の学芸員の章。
クビナガリュウの化石ではないと確認した研究者、佐藤たま氏の章。
ハドロサウルス科の化石と確認した、小林快次氏の章。
また、発掘に当たった学生の章、
クリーニングを行っている方の章などだ。

早く顛末を知りたい気持ちでムズムズするが、
本書一冊で、現在の日本の恐竜学を取り巻く状況が網羅されるという構成になっている。

恐竜学関係の本は多々あるが、
今後、「日本における」と冠をつけた時には、本書は真っ先に推薦される一冊となるだろう。

特に、「恐竜をやりたい」と考えている中高生には、ぜひ読んでいただきたい。
本書には、夢が詰まっている。

本書で取り上げられた発掘の概要は、 穂別博物館のホームページで見ることができる。

また、本書の執筆陣のである土屋氏、小林氏が関係する著作については、本書でも多く取り上げている。
いくつかは本書でも触れられているので、関連して読むことをお勧めする。
(特に「日本恐竜探検隊 (岩波ジュニア新書)」(レビューはこちら) は、
今回の発掘を予言する本として楽しい。)

それにしても、「恐竜好き」にとって、現代は何と魅力的な時代なんだろう。

【目次】
第1部 むかわ町穂別
第2部 恐竜化石
第3部 発掘
第4部 ハドロサウルス類
第5部 これから

本ブログで取り上げた関連本は下記の通り。

▼恐竜が繁栄する前に、恐竜のように多様化・進化していた現在のワニ類の祖先であるクルロタルシ類(Crurotarsi)。
多くの図版が用いられ、本書でしか見られないものも多い。
(レビューはこちら)


▼鳥類と恐竜の関係というホットトピックに関する本。
(レビューはこちら)


▼短編により、最新知見を気軽に得られる本。
(レビューはこちら)



▼ジュニア向けとして刊行されながら、中味は極めて濃い。子供向けじゃないぞこれ。
(レビューはこちら)


▼最新の恐竜概論。気軽に読める一冊。
(レビューはこちら)


▼本書の著者である土屋健氏と小林快次氏による、恐竜に関する最新知見を1テーマ2~3ページで解説するもの。
巻末には参考文献リスト(和書、雑誌記事、洋書、学術論文等)が掲載されており、入り口として良い。
(レビューはこちら)

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