ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

知られざる日本の優れた国際貢献と、それを成し遂げた人々。「中米の知られざる風土病「シャーガス病」克服への道」  

中米の知られざる風土病「シャーガス病」克服への道 (地球選書)
橋本 謙



シャーガス病。
聞きなれない病気だが、中南米では極めて深刻な人獣共通感染症である。
媒介するのはカメムシの仲間であるサシガメ。

家の土壁のひび割れや屋根の茅葺材に潜み、夜間に人を襲い、吸血する。
その後に糞をするのだが、これに原虫トリパノソーマ・クルージTrypanosoma cruziが含まれている。
痒みに人が搔くと、その原虫が傷口から侵入し、感染してしまう。

感染した直後の急性期(1週間~数ヵ月間)には高熱等があるものの、無症状の人も多という。
この感染症の問題はむしろ10 年~数十年後で、次第に疲労感や胸の苦しみを訴え、心筋炎等で急死するという。

日本でも献血時に中南米生まれ・育ちは申告するよう指示があるが、これによってスクリーニングにかけている。
(なお献血の場合、血液は様々な工程を経て管理されることから、輸血による感染は日本では無い。
また全世界でも、感染例はこれまで全てで数十人程度のようである。)

シャーガス病を媒介するサシガメは大きく2種あり、外来種のR.p.種と在来種のT.d.種がある。
このうち外来種のR.p.種は人家でのみ繁殖し、殺虫剤に弱い。
一方、在来種のT.d.種は野外に生息する。
こうした2種が混在し、また十分な衛生環境にあるとは言えない中南米の農村地帯では、
サシガメを根絶するのは極めて困難だ。

だがそれに対して、PAHO(米州保健機構)等は「2010年までに中米におけるシャーガス病の感染を中断する」という目標を掲げ、その対策を1997年に開始。JICもはグアテマラ、ホンジュラス、エル・サルバドル、パナマで広域的に技術協力を展開している。

その結果、JICAによる取り組みは調査・駆虫・啓発それぞれの事業面で高い成果を挙げているが、
その道のりは平坦なものではなく、一人一人の協力員の努力、創意工夫の賜物である。

本書は、その取組みの歴史を一冊にまとめたもの。
その特色は、シャーガス病根絶のため取組みという面もさることながら、
JICAがどのような姿勢・体制で中南米諸国におけるプロジェクトに取り組みんでいたかが詳細に語られている点だ。

ともすれば、シャーガス病根絶という大目的のみに注目し、
圧倒的な人材・経済力を投入し、短期集中的な行えばよいと考えがちだ。

だが日常的な生活の中にある感染症だけに、
中南米諸国自身、また個々の住民自身の意識改革が不可欠である。
でなければ、短期間での感染中断はあっても、継続的かつ拡大な予防は不可能だろう。

まさにJICAがこうした姿勢にたち、中南米諸国自身の力で対策ができるように、
現地のシステムと人を育てていることが、本書で明確となっている。

派遣される現地の協力隊員は若く、当初は何をどうすれば良いのかも分からない。
だがその中で、日本人ならではの発想と取組みにより、少しずつ改善させていく。

日本に対する各国の評価は高いが、その評価は経済力や高性能な車や家電に対するものと思いがちだ。
だが実際には、こうした地道な協力が行える点にあるだろう。

日本から遥か彼方の国とはいえ、シャーガス病という深刻な感染症を放置することはできない。
また、JICAをはじめとする様々な国際協力がも日々続いている。

日本で生活していると全く目に入らないテーマだが、多くの人が知っておくべき話だろう。

プロローグ 一世紀前に発見されたシャーガス病
第1章 シャーガス病は「貧困の病」
第2章 プロジェクト前史:媒介虫の棲みかをつきとめよ
第3章 サシガメを退治せよ:発展期2000~2007年
第4章 低下した感染リスクを維持する仕組みづくり:自立期2008~2011年
第5章 サシガメ対策の成果
第6章 人がつながり、人が育つ
第7章 感染中断の国際認定と今後の展望
エピローグ プロジェクトで育った人たちのそれから
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category: 感染症

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