ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

考える視点のヒント。「ルリボシカミキリの青―福岡ハカセができるまで 」  

ルリボシカミキリの青―福岡ハカセができるまで
福岡 伸一



科学者による定期的なエッセイというのは、なかなか少ない。

もちろん科学者たるもの、本業で成果を出すのが第一だ。
でも、本業に関連する一般向けの書籍も出版してほしい。
科学の第一線は、やはり科学者自身によって語られることが最も面白いからだ。
通常、それすら行う時間も労力も無いのだが、無責任な第三者としては、
さらに科学者が日常的にどのように考え、どんな問題意識を持っているかという点についてのエッセイも望みたい。
というのは、やはり科学者の「視点・思考」というのは、独特だからである。

他者を知ることは自分を知ること(もしく、自分が何を知らないかを知ること)だと思うが、
特に科学者のエッセイからは、自身に欠けている視点を多く学ぶことができる、と考える。

特に昨今、トンデモ科学に陥りやすい人々が増加している。
個人的には「ゆとり教育」の弊害云々ではなく、むしろ高度成長期以降の実学志向、
「役に立つ知識・技術の取得・確立が第一」という考え方が蔓延し、
「自分の知識の限界を知ること(自分が「知らないこと」ばかりであること)」と、
それを解決するための情報探索と思考のトレーニングが欠けているからではないかと思う。
このままでは、ますます地に足のついた思考ができる人と、トンデモ思考の二極化が進むだろう。

これを解決する一助として、科学的知識の普及ではなく、その科学的思考のプロセスを学ぶことが重要だ。

ところが、本業に関連するものはともかく、普遍的なテーマを対象とし、科学者ならではの視点を加味したエッセイを定期的に出す科学者は少ない。
養老孟司氏、ミステリも関連するが森博嗣氏(推理小説作家、元工業大学)、ちょっとマイナーなのが須藤靖氏(東京大学)。
本ブログでも取り上げたり、僕がすぐ思いつくのはその程度だ。

・森博嗣氏
封印サイトは詩的私的手記 I Say Essay Everyday」とか、「MORI LOG ACADEMY〈1〉 (ダ・ヴィンチ ブックス)」とか色々ある。
日記系よりも、考察系の方が今となっては良い。

・須藤靖氏
人生一般ニ相対論 」(レビューはこちら )や、「三日月とクロワッサン」(レビューはこちら)がある。独特の視点が楽しいのだが、残念ながらどんどん新刊が出ているという訳ではない。

そして本書の著者、福岡伸一氏もそうした科学者の一人である。本ブログでは、「生命と記憶のパラドクス―福岡ハカセ、66の小さな発見」(レビューはこちら、ずいぶん昔だなあ)を紹介しているが、本書もその流れを組むもの。

時代としては村上春樹の「1Q84」が刊行された頃であり、それにまつわる話題も多い。
本書後書きにも書かれているが、福岡氏としては「隠しテーマ」があり、それを踏まえて再読すると、新たな発見も多いだろう。

しかしむしろ、僕としてはこの頃「脳死移植」が話題となり、人の死はいつの時点かという議論が盛んだったが、
福岡氏が逆に「ヒト」としての誕生はいつの時点かという点についても同様に議論が必要であること、
そして現代の議論は、再生医療への展開を促進する一方で、
ヒトとしての「生命の時間」を狭めている(肉体の死から脳死へ、また「脳始」という観点から受精時よりも受精後24~27週へ)
という指摘が興味深かった。

また人が第一言語はどんな言語でも覚えてしまうように、
デジタルツールについても、それが第一に出会うものならそれがスタンダードとなるという指摘。
これも昨今の「スマホやタブレットは使えるがPCは使えない」という、
MSXとかX1とかPC8801mk-IIとかを見てきた世代からすると嘘だろうという世代が生じていることにも繋がり、
これから生きていく上で意識しなければならないと思う。
そういえば我が家の子供たちも、スマホやタブレットは使えるが、PCは使えないんじゃないだろうか。問題である。

【目次】
第1章 ハカセの研究最前線
第2章 ハカセはいかにつくられたか
第3章 ハカセをいかに育てるか
第4章 理科的生活
第5章 『1Q84』のゲノムを解読する
第6章 私はなぜ「わたし」なのか?
第7章 ルリボシカミキリの青

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