ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

真に凶悪な犯罪は、誰も気がついていない。「凶悪―ある死刑囚の告発」  

凶悪―ある死刑囚の告発
「新潮45」編集部



日本の殺人事件率、諸外国(アメリカやヨーロッパ諸国)と比しても、まだまだ低いだろうなと思われている。
(実際にそうらしい。)
ただ一方、実は「自殺」や「病死」と見做されるものの中に、かなり殺人が埋もれているのではないかという点も、よく言われる。
(とんでもない「自殺」に対して、最近は「エクストリーム自殺」という言い方すらあるほどだ。)

警察や関係機関の能力不足や怠慢による見過ごしというよりも、
検視医が圧倒的に不足している現状では、こうした可能性を否定することもできない。
過去の安全神話を前提とした社会システムが、警察官や検視医・監察医の増員を拒み、
その結果、十分に捜査されないまま、「事件性無し」となっていく。

むやみに不安を煽る必要はないが、現在の日本社会は、
現行の警察行政で十分なほど安全ではない。

本書で語られる、いわゆる「上申書殺人事件」も、そうした見過ごされていた犯罪だ。

端緒は、既に拘置所に収監中の殺人犯である後藤良次から、
知人(これも拘置所に収監されている人物だ)を介し、雑誌記者である著者に届けられた一報である。

「自分が裁かれている事件の他に、
まだ自分が関与した事件で明らかになっていない事件に、殺人2件と死体遺棄1件がある。
それらを自分が犯したことは間違いないが、首謀者は「先生」と読んでいた不動産ブローカーだ。」

デマ、もしくは裁判の引き伸ばし策ではないかという疑念も抱きつつ、著者は取材を開始する。
その結果明らかになっていく、後藤良次の通報にそった事実の数々。

疑惑は確信に変わり、ついに著者は「先生」こと三上静男に取材を行うが、三上は会う事すら拒む。
ついに著者や後藤良次の弁護士は、後藤良次が通報した3件の事件に関する警察への「上申書」を提出。

警察の執念の捜査も実を結び、ついに平成18年12月9日、警察は三上の身柄を拘束した。

と、ここまでがハードカバー版での内容だ。

現在刊行されている文庫版では、書下ろしとして三上の判決を描く最終章、
さらにそれ以降の時点による「文庫版のあとがき」が追加されている。

「主文、被告人を無期懲役の形に処する」。

裁判で明らかになる冷酷な所業には、慄然とするばかりだが、
それよりも後藤の自白が無ければ、この事件自体が露見することがなかったことに寒気を覚える。
こうした犯罪が、まだまだ埋もれている可能性もあるのだ。

本書は稀有な流れを辿った犯罪ノンフィクションとして有名だが、
こうした「露見していない殺人事件」が多数存在しうるのが現代社会だということに気づかせる、警鐘の一冊とも読める。
しかしなか゜ら、本書を踏まえて、検視制度が改善されたという話は聞かない。
むしろ、「法医学者、死者と語る~解剖室で聴く 異状死体、最期の声~」(レビューはこちら)のように、まだまだ検視制度の不足を告発する本すらある。
日本が「事件が無い」安心な社会は、既に過去の神話だ。
もっとリアルな、「事件はあるが、確実に把握されて裁かれる」安心な社会を目指さなければならないだろう。

なお、こうした犯罪ノンフィクションを読むたびに思い出すのが、「北関東連続幼女誘拐殺人事件」だ。
「足利事件」や「菅家さん冤罪事件」として記憶されている方も多いだろう。
未だ「連続誘拐殺人事件」としてきちんと捜査されていなようだが、現在連続事件とみなされているのは、次の5事件。
 (1)1979年 栃木県足利市 5歳女児
 (2)1984年 栃木県足利市 5歳女児
 (3)1987年 群馬県新田郡尾島町(現・太田市) 8歳女児
 (4)1990年 (足利事件) 栃木県足利市 4歳女児
 (5)1996年 (失踪事件) 群馬県太田市 4歳女児
これらの事件には、次のような共通点がある。また犯行は半径10キロの範囲内だ。
 ・被害に遭ったのが4歳から8歳までの児童
 ・パチンコ店が行方不明の現場(3事件)
 ・河川敷で死体遺棄(3事件)
 ・金曜、土曜、日曜および祝日に事件が発生(4事件)

この連続殺人事件については、「殺人犯はそこにいる: 隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件」(レビューはこちら ) という著者による追及・告発の書がある。何度か大きな話題となったが、未だ解決には至っていない。
こうした事件を徹底的に究明することが、真の「安全社会」だろう。

【目次】
独房からの手紙
サイは投げられた
“先生"VS殺人犯
驚愕の証言
“じいさん"の素性
“カーテン屋"を知る女
そして、矢は放たれた
脚光を浴びた死刑囚
第四の殺害計画
消せない死臭
闇に射しこむ光




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category: 事件・事故

thread: 読んだ本の紹介 - janre: 本・雑誌

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コメント

 コメントありがとうございます。
 「こんな事件があったのか」という驚きがある一方、昨今の日本を見ていると、「他にも発覚していない事件は多いだろうな」と感じます。
 日本は安全ボケと言いますか、「凶悪事件の隠蔽は有りえない」「凶悪事件は特別なもの」という前提の認識・社会設計と思いますが、
「身近な凶悪犯罪ほど隠蔽されている筈だ」という思考に切り替え、ドラスティックに全て疑うべき時代かと思います。そのためには監察医等の充実も必要ですね。
 「裁判百年史ものがたり 」、興味深い一冊です。早速手配しました。

BIRD READER #- | URL
2016/08/21 11:45 | edit

最近夏樹静子の「裁判百年史」をおもしろく読みましたが,この本もおもしろそうですね。いつも刺激を受けています。ありがとうございます。

nitta245 #- | URL
2016/08/19 09:21 | edit

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