ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

国菌・麹菌。その凄さを実感する。「和食とうま味のミステリー:国産麴菌オリゼがつむぐ千年の物語」  

和食とうま味のミステリー:国産麴菌オリゼがつむぐ千年の物語
北本勝ひこ



それぞれの国・土地・町には、それぞれの郷土料理がある。
その郷土料理は、それぞれの土地柄と歴史にあわせ、そこに定着している人々が選別・発展・確立してきたものだ。

僕は「食」に対しては、食材の流通史と郷土料理の歴史に特に興味があるのだが、
この郷土料理の成り立ち、何かに似ているなと思えば、僕が興味を持っている生物地理学そのものであった。

特定の地域において、その風土に適合したモノが発展・分化していく。
いわば個々の郷土料理は、その地域の固有種なのである。

だとすれば、その固有種の生物相を調べ、歴史を遡ることにより、
生物地理学同様に、その地域の特異性を明らかにすることもできるだろう。

本書は、日本の郷土料理-和食-について、
その根本的な要素を「うま味」と看破し、うま味の歴史を辿ることによって、
日本が世界的にも妙な食文化を確立するに至った必然性を明らかにするもの。
いや、面白そうである。

さて、本書ではまず「日本酒」を取り上げる。
広い範囲の和食だが、料理じゃないよなという気がするが、
実のところ日本の和食-うま味確立を知る上では、実は日本酒こそが重要のようだ。
というのは、味噌、醤油といったかなり加工度が高い調味料よりも、
自然発酵で得られる酒のほうが歴史的に古く、そしてその製法等が以降の食文化にも方向性を与えるためである。
なるほど果実酒やサル酒という伝説もあるし、
世界各地で葡萄からワイン、麦からビール、そして米から日本酒が生じている。
そしてそれらの原料は、その地域の考古学的時代において生産しやすい素材である。

さて日本酒だが、本書では日本における酒の製法について、古文献等を元に紐解いていく。
日本において果実酒が発展しなかった理由、
ごく初期の酒の製法である「口噛み酒」、その低効率性。
そこで、発酵過程の効率化のために生じた「麹菌」の利用と「家畜化」。
和食における日本酒の最も重要な意味は、この「麹菌」の取得だった。

そして本書は、日本酒と「麹菌」から導きだされた醤油、味噌の歴史を辿り、
これらによる「うま味」に対して相乗効果を働かせる昆布、鰹節の利用に展開していく。

こうして辿ると、なぜ日本人が発酵食品と「うま味」に執着するのかが明瞭に理解できる。

逆に、日本の風土から腐敗しやすい食文化は発展し難かったこと(果実酒は発酵する前に腐敗してしまう、貯蔵に回すほどの果実を生産しない)、食肉用の家畜を持たないことから、酪農も、乳製品の利用も生じなかった理由も浮き彫りになってくる。

また、麹の作り方についても、日本の特異性がある。
麦や米以外の穀物を多く生産し、それらを材料とする地域では、
麦等の皮を分離するのが難しいため、まず粉状に挽き、それを水で練り上げて発酵させる。
だが日本では、米を蒸しあげ、粒状のまま発酵させる。
日本にいるとあまり意識しないが、こうした麹菌の生産方法の違いは、以降の食文化の発展に大きく影響を与える。

このほか、本書では酒造りの時期(江戸時代以前は、日本では秋からの冬の寒造りが主流だった)、
また麹造りの場所(暗所)による日本独特の麹菌の発展(というか家畜化による育種)、
「火入れ」と呼ばれる低温殺菌法の早期導入など、日本酒づくりの過程に得られた技術の高さも紹介されている。

日本における昆布の利用・流通については「昆布と日本人 (日経プレミアシリーズ)」(レビューはこちら、この本は日本人なら読んでおきたい一冊である)、
また鰹節については「かつお節と日本人 (岩波新書)」(レビューはこちら)がある。
これらと併せて読めば、和食の特異性、そして和食がまさにガラパゴス的発展をした日本固有種であることが実感できるだろう。

なお、本書に描かれた麹菌・オリゼーや「口噛み酒」、これらは漫画「もやしもん」において見事にネタとして昇華されている。
Amazonや楽天に全巻セットも販売しており、お手頃価格である。ぜひ。
(僕も先日購入した。)

【目次】
第一章 なぜ日本人はうま味を求めるのか
第二章 美酒の追求が和食を高める
第三章 種麴屋と国産麴菌オリゼの誕生
第四章 オリゼがつむぐ調味料と和食
終章 うまみが広げる和食の世界






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