ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

人間に最も身近で、最もかけ離れた野生動物を知る。「野鳥ってすごい!」  

鳥ってすごい! (ヤマケイ新書)
樋口 広芳



昆虫はすごい 」(レビューはこちら)の後追いタイトル。
出版社の意向もあるのだろうが、こうした追随タイトルは正直情けない。
各書には各書の価値があり、それを表現する最も適したタイトルがあるはずだ。
追随タイトルは、出版社自ら「本書は流れに乗って作った程度の本です」と言っているようなもの。

本書も、内容はとても良いのに、その浅薄なタイトルで損をしている例である。
著者は、現在日本の鳥類学を牽引する第一人者。鳥類学といえば「鳥類学者 無謀にも恐竜を語る (生物ミステリー)」が昨今有名だが、鳥類そのものを地道に研究し続けるという意味で、愚直なまでの正統派と言える。

その著者が、最新の世界の研究も踏まえて、野鳥の驚くべき生態等を紹介するのが、本書である。
「渡り」というテーマにしても、過去の人工衛星を用いたアルゴスシステムによる渡り研究から、
最新のバイオロギングを用いた調査、著者によるハチクマ追跡プロジェクト(ハチクマ渡り公開プロジェクトサイト)などの知見まで盛り込まれており、初心者向けながらも、
ある程度野鳥好きにも楽しめる本である。

むしろ、最近多くなった撮影主体の鳥見屋さんには、こうした生態系の本も読み、
野鳥という生物の面白さを感じ、広めてほしいと思う次第である。

さて、本書のトピックをいくつか紹介しよう。
例えば、渡りだ。オオソリハシシギというシギ・チドリ類。
春秋に渡りを行うが、衛星追跡した結果、
繁殖地アラスカから越冬地のオーストラリア東部等まで、♂2羽は5日間で約7400~7400kmを、
♀7羽は6~9日で8100~11700kmを、無着陸で飛行したという。
「飛翔する生物」は数多いが、風に飛ばされるというレベルではなく、
自律的な飛翔において、ここまで特化しているというのは、凄まじい。

また、最近NHKで時折放送される、ハチを捕食するワシタカ類、ハチクマ。
なぜハチクマだけがハチに襲われても平気なのか、またなぜハチの攻撃が他の動物に対するもの程激しくないのかが不思議なところだが、近年の研究によって、
ハチクマの体全体(特に頭部)に、糸状微粒子があり、これがハチの行動を不活性化している可能性があるという。
ハチという強烈な攻撃性を持つ昆虫に対して、いったいどのような化学的防御を行っているのか、
そしてそれはどのように進化してきたのか。興味はつきない。

色について。
野鳥はヒトより可視領域が広く、近紫外線まで知覚できため、ヒトよりも多彩な色の世界に生きている。
そして、ヒトから見て雌雄が識別できない野鳥も多いのだが、
そのうち139種を調査した結果、9割以上の種にヒトが感知できない色の差があったという。
こんな情報を知ると、なんとかしてそれを見てみたいと思う。

また、野鳥自身の色については、黒や灰色を示す真正メラニン、栗色や赤褐色の亜メラニン、
赤、橙色、黄色を示すカロテノイド色素などが主体だ。
その上に本書では、アフリカに棲むエボシドリ類が固有に持つ赤(トラシン)、緑(トラコバジン)、
インコ類が持つ鮮やかな赤・黄を示すサイタコファルビンなども紹介されている。

また構造色についても、鳥類では青い色素は知られておらず、青や紫は全て構造色と考えられること、
また白い羽毛の多くも色素ではなく構造色であると紹介されている。

生態面では、
つがい外交尾を行う率が高い鳥ほど、♂に鮮やかな色や模様が発達している例が多い、とか、
日本周辺で繁殖するカンムリウミスズメが、例えば九州北部で繁殖した個体は1年をかけて日本を一周しているとか、
前述のハチクマ渡り追跡プロジェクトで得た結果、春秋の渡りコースが明確に異なること等、
野鳥を見る目が変わる話題が満載である。

さらに一章を割かれているカラス類については、
学習、遊びなど、身近で楽しめる観察テーマに直結する話も多い。
僕も電線に逆さにぶさがって遊ぶ(としか見えない)カラスを見たことがあるが、
その賢さに関しては、驚くばかりだ。

昆虫が、その小ささ・単純さ(に見える)に比して、
驚くべき複雑さを示したのが、「昆虫はすごい 」だった。

本書は逆に、それなりに複雑そうな野鳥が、
実は人間の想像を超える能力を多々持っている、という点を明らかにするものだ。

その面白さを伝える素晴らしい一冊だからこそ、ヒネリの無いタイトルが勿体ないのである。

【目次】
第1章 なんと言ってもすごい鳥の飛行術
第2章 羽毛は鳥の命綱
第3章 鳥はとってもおしゃれ
第4章 くちばしとつがいに見る鳥という生き方
第5章 渡りの謎その一 どこからどこへ?
第6章 渡りの謎その二 さらなる疑問を追って
第7章 カラスおそるべし!その知能の秘密
第8章 ずるがしこさの極み―托卵
第9章 遊ぶ鳥たち
終章 鳥からのメッセージ
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