ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

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絶望的な逃避行と、苛烈な尋問。「ブラヴォー・ツー・ゼロ―SAS兵士が語る湾岸戦争の壮絶な記録」  

ブラヴォー・ツー・ゼロ―SAS兵士が語る湾岸戦争の壮絶な記録 (ハヤカワ文庫NF)
アンディ マクナブ



アメリカン・スナイパー (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)」(レビューはこちら )とか、映画「ローン・サバイバー 」 (原作は「アフガン、たった一人の生還 (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ)」)を見ていると、折に触れ目についたのが本書。

1991年1月17日に始まった湾岸戦争の最初期の1月22日に、スカッド・ミサイルの発射機等を破壊するため、8人のSASがイラクに潜入。ところが現地には、事前情報を超える部隊が展開しており、8人は早期に作戦中止を余儀なくされる。
撤退先としたシリアは300km先。隠れるものもない砂漠、高地では30年ぶりの寒波による降雪、そして徹底した追跡。
8人はいつしか散り散りとなり、ついには捕虜となってしまう。

確保したのは、フセインによる独裁がピークに達していた時期であり、国家全体がまだ独裁国家の体を成していた時期だ。

捕虜となった著者らに昼夜を問わず続けられる容赦ない追及、罵倒、殴打。
本書では、戦時下という言葉だけでは説明できない、人間の残虐性が曝けだされている。

本書で描かれているのは、ほぼ潜入した1月22日から、解放された3月5日までの6週間にすぎない。

だが、その濃密な時間は、余すことなく記されている。
前半の潜入時。作戦検討、準備、ヘリでの潜入、そして潜入地点までの行軍は、まさに1分1分が緊張の連続だ。
文章のテンポと行動のテンポ、時間の進行が絶妙に噛み合い、
あっという間に読み進む。

発見された後の逃避行は、周囲は全て敵という状況下。
通信は途絶して助けも呼べず、荒野を300km先のシリアへ向かう。
だが、決して絶望下ではなく、彼らはまだ自信に満ち溢れている。

だが時間が経つにつれ、悪天候による気温低下が低体温症を招き、
またどちらへ進んでも敵軍と遭遇。
交戦の混乱、孤独、そして投降。

後半、捕虜となってからは、容赦ない暴行が続く。
読むのが耐えられない人もいるかと思うほどだが、
これが現実にあったことだと思い出せば、さらに背筋が寒くなる。
いつ暴行が加えられるか。次は何が待っているのか。前半とは異なる緊張が続く。

もちろん彼らが解放されたからこそ、この本書があるわけだが、
救いの見えない状況は、本当に恐ろしいものだ。

湾岸戦争は、リアルタイムでテレビで放送されるという、新しい時代の戦争だった。
しかも、映し出されるのは誘導による精密爆撃やトマホーク等、遠隔地からの攻撃が多く、
実際の兵士の戦いが報道されることは少なく(もちろん報道方針によるものだろう)、
リアルな戦争という感覚が少なかった。

だがその最中、こうした戦闘があり、悲劇と苦しみがあった(捕虜となった著者らもそうだが、
著者らに倒されたイラク兵士にも家族も人生もあったはずだ)ということは、
もっと広く知られるべきだろう。

もちろん本書は、SASという職業兵士の中でも選抜された者たちだから、
戦争や生死に関する視点は、あくまでも西側兵士のものだ。
それは、立場上どうしようもないものだから、それをもって本書を批判するのは的外れだろう。
(それは、「アメリカン・スナイパー (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)」 も同じだ。)

また、SASという組織が現に存在する以上、
全ての出来事が余さず記録されているとか、記載された事項の全てが真実であるとかの幻想も抱くべきではない。
(強制の有無にかかわらず、当然ぼかされてる事項も多いだろう。)
だから、1点1点が事実と異なるからといって、本書の全てを否定するのもおかしい。
(それほどナイーブな人は、そもそもこうした当事者の本は読むべきではない。)

そうした事を踏まえて、やはり本書は1990年代以降の戦時下を記録した、
稀有の戦争ドキュメントとして価値がある。

それにしても、とにかく、
「山羊飼いほど恐ろしいものはない」というのが、
本書や「ローン・サバイバー 」から得た教訓である。
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