ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

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冬の隣人・カモ類を極めるために、必須にして現在最高の図鑑。「決定版 日本のカモ識別図鑑: 日本産カモの全羽衣をイラストと写真で詳述」  

決定版 日本のカモ識別図鑑: 日本産カモの全羽衣をイラストと写真で詳述
氏原 巨雄,氏原 道昭



野鳥観察を始めた方には、シギ・チドリ類はどれも同じに見えるだろう。
また、冬の海辺のカモメ類はただでさえ観察しづらいのに、
齢による羽衣変化があるうえ、セグロカモメの仲間の分類がよく変わり、学名・和名共にやや混乱している。
ワシタカ類も性・齢による羽衣変化が大きいうえに、そもそも出会う頻度自体が少ない。

だが、こうした識別が困難なグループほど、出会った1個体をじっくり見る喜びは大きい。
種名だけでなく、性や齢を追及する面白さ。
亜種を知れば、ダイナミックな渡りに思いを馳せ、
じっくり観察し続けることで、時には思いがけない珍しい個体を見いだすことすらあるだろう。

そんな喜びに嵌まった多くの方が、こうした「識別が難しいグループ」に挑み、様々な知見が文献となり刊行されてきた。
ワシタカ類だと「図鑑日本のワシタカ類」。シギ・チドリ類だと「シギチドリ類ハンドブック」、カモメ類だと「カモメ識別ハンドブック」あたりが、まずは定番だろう。

このうち、カモメとシギチの両ハンドブックの著者は、同じ氏原巨雄・道昭の両氏。
お二人の図鑑には、国内外の記録や文献の精査、実地での詳細な識別経験、そして自身がイラストを描かれることにより説明と図の食い違いがないという大きな特徴があり、それが高い評価に繋がっている。

90年代前半、両氏による「カモメ識別ガイド (BIRDERスペシャル)」がカモメに関する最も重要な識別資料の一つとして有名だったが、そのクォリティをさらに高めた「カモメ識別ハンドブック」(現在は改訂版。初版は2000年刊行)は、日本のカモメ識別レベルを引き上げた重要な一冊と言える。
また、「シギチドリ類ハンドブック 」が刊行された際にも大きな話題となっており、僕のように、この2冊のハンドブックを常備している方も多いと思う。

そして今回、三たび両氏が著者となり刊行されたのが、本書「決定版 日本のカモ識別図鑑」だ。
カモ類については♂が識別しやすい一方、
エクリプスや幼鳥の識別はなかなか厄介で、これまでの図鑑では、あまり詳細に踏み込んでいなかった。
そのため、各種の雌・エクリプス・幼鳥まで網羅的に確認しようとすると、
それこそ90年代に氏原氏が雑誌BIRDERに書いた記事くらいしかなかった。

しかし満を持して、今回「決定版」と銘打ってカモ類図鑑が刊行されたわけだ。

本書では、水面採餌ガモを巨雄氏が、潜水ガモを道昭氏が担当。
お馴染みイラストはかなり大きめで、明瞭に識別点をチェックできる。
しかも、これまでの図鑑には無く細かな性・齢のステージごとに描き分けられている。

例えばヒドリガモでは飛翔図(♂生殖羽、♂幼羽→第1回生殖羽、♀成鳥、♀幼羽)、横からの図として♂生殖羽、♂エクリプス、♂エクリプス→生殖羽、♂幼羽→第1回生殖羽、♀生殖羽、♀非生殖羽、♂第1回生殖羽、♀幼羽、♂幼羽の計13図を掲載。こんな感じで全種が通されているという、驚愕の内容である。

また、これまでの両氏のハンドブックとの大きな違いとして、写真が多用されている点がある。
きちんと撮影地と年月日が付された多数の写真によって、様々な中途半端な時期の個体をイラストと比較しながら識別することができ、誌上で識別力を高めることができるだろう。

さらに、アメリカヒドリとヒドリガモ、コガモとアメリカコガモなど、
じっくりチェックしたい話題については数ページと多数の写真を用いて解説。
「雌は識別しにくい」と逃げるどころか、♂♀成幼、全ての組み合わせで解説するという充実ぶりだ。

48種のカモ類のみに限定しながら、300ページという昔の野鳥図鑑なみのボリュームであり、
掲載された情報量はちょっと類を見ないもの。
これだけの知見を様々な文献から自力で探すのは困難である。

シギ・チドリ類などに比較すると、カモ類は安易に識別できる(少なくとも♂では種レベルは分かりやすい)と考え、
僕ももとより、おそらく 多くの方が安易に見てきたと思う。

しかし、本書は「きちんと見ればこれだけ識別できるのだ」と教えるとともに、
暗に、これまでの一般的な見方がいかに浅かったかを突きつける。野鳥の世界の底深さを改めて思い知らされる一冊だ。

本書は「決定版」の名のとおり、「シギチドリ類ハンドブック 」、「カモメ識別ハンドブック 」に続き、
おそらく今後のカモ識別のバイブルとして、長く使われることだろう。

ただ残念ながら、あまりに完成度が高く評判も良いので、ネット上ではもう在庫がなく、しかも版元も品切れだ。(2016年2月16日HP閲覧)
ネット上の一部ではプレミア価格までつけられているので、興味がある方は、お近くの書店で発見した際には迷わず購入されたい。
数年後に改訂版が出るかもしれないが、このような基礎文献は絶対に早期に入手し、
少しでも早く実地に使っていきたい。

【目次】
この図鑑の使い方
用語解説
各部位の名称
換羽と各羽衣の特徴
水面採餌ガモ♀の生殖羽と非生殖羽
カモ類の色彩異常
カモ観察の手引
水面採餌ガモ
潜水採餌ガモ

▼カモメ類を齢ごとに図示。冬の海辺での観察時は必携。


▼シギ・チドリ類を詳述。持ち運びも軽く、春秋の水辺では常備しておきたい。


▼現在は第2版が刊行されている、日本産ワシタカ類の刊行当時の知見を全て盛り込んだ大形図鑑。
 初版も18,000円(税抜)しており、僕には第2版まで買う気力は無かった。
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