ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

地球環境の変遷から、生命誕生に関する理論モデルを構築する。「生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像」  

生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像 (講談社現代新書)
中沢 弘基



生命の系統樹、というモデルを見ることが多い。
昨年国立科学博物館であった「生命大躍進展」、NHKでタイアップの番組もあったが、そこでも生命の樹モデルが使われていた。

そのモデルの暗黙の前提は、最終的に幹にまとまり、1点から生じること。

すなわち、生命はある一つの起源生物から進化した、という考えだ。
そして、その「ある一つの起源生物 」はどんな生物なのか、というスタンスでの研究が行われている。

だが、筆者はその点に疑義を投げかける。

そもそも、生命の種分化が、生物進化というメカニズムであるならば、
その前に存在する生命誕生以前の、様々な分子が結合する段階にも、「分子進化」のメカニズムがあり、
それは当時の地球環境の変化による選択圧があったはずだ。

また、その「分子進化」のメカニズムは、
なぜ鉱物ばかりの地球に炭素や水素でできた有機分子が出現したか、
しかもアミノ酸などの基本的な有機分子は、全て水溶性で粘土鉱物と親和的なのか、という生命研究上の
課題にも矛盾なく回答しうるはずだ。

そうした視点から、本書ではまず、従来の起源生命に関する考え方の矛盾指摘に、ほぼ半分を割いている。
やや長いながらも、確かにこの部分がなければ、
著者がどうしてこれほど地球環境の変化という選択圧による「分子進化」のメカニズムに拘るかが、理解できないだろう。

そして、旧来の起源生命観を否定した後に展開される説は、
かなり刺激的だ。
当時の「陸地のない海ばかりの地球」に降り注ぐ、「後期重爆撃期」と呼ばれる隕石落下。
その落下により発生する破壊の中で生じる有機分子の結合。
様々な有機分子が海中に落ちた後、濃縮され、かつさらに結合するメカニズム。
その過程で説明される、基本的な有機分子が、全て水溶性で粘土鉱物と親和的な理由。

また、様々な有機分子が結合し、様々な働きを行う小胞の融合により、
単機能の小胞が代謝可能な小胞になり、
さらに遺伝子の水平転移や共生により網目のように起源生命が発生したという考え方は、
なるほどと唸らされるものだ。

このように、様々な傍証と実験を踏まえて展開される説には目立つ矛盾もなく、
かなり説得力があるように感じる。

ただキラリティの問題(分子の鏡像性の問題、例えば生体のアミノ酸が全てL体である点等)については、
明確な説や傍証が示されておらず、この点まだ熟していないようだ。

もちろん、本書の前提としている地球環境史が修正されたり、新たな要因が発見されるかもしれない。
「起源生命」については、どんどん新しい説も出てくるだろう。
だから、本書の説がそのまま正解ではないだろうが、
世間一般が抱いている「起源生命」観が誤っていること、
そして「起源生命」を考える際には地球環境史の視点が欠かせないことを、本書は教えてくれる。

各章ごとに、それまでの総括と今後の展開の概要、
また多くの参考文献と引用源を提示するなど、
新書というカテゴリーながら、一般人が起源生命の研究を見守るうえで欠かせない一冊ではないだろうか。

【目次】
第一章 地球「ダイナミックに流動する水の惑星」
第二章 なぜ生命が発生し、生物は進化するのか
第三章 「究極の祖先」化石の証拠と遺伝子解析
第四章 生命の素材 有機分子の生成と自然選択
第五章 アミノ酸からタンパク質へ
第六章 生命機能の成立 個体、代謝、遺伝の発生
第七章 生命は地下で発生、海洋に出て適応放散した
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