ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

単なるブックガイドではなく、科学史概論だ。「科学の本一○○冊」  

科学の本一○○冊
村上 陽一郎



本との出会いは、難しい。
新刊ならまだしも、数年前に刊行された本-しかも科学やノンフィクションといった本だと、
刊行部数自体も少なく、あっと言う間に時の谷間に消え去ってしまう。
その谷底から、自分が読みたい本や読むべき本を見つけるのは、かなり経験とテクニックが必要だろう。
本書のようなブックガイド本も、そうした探索の手掛かりとなることから、
気が付いた時には手に取るようにしているが、
本書は、単なるブックガイドではなかった。嬉しい誤算である。

著者は物理学史が専門。だかそれはおそらく研究範囲であり、それを知るためには当然より大きい科学史を知ることが必要となる。
その科学史を学んできた著者のバックボーンを活かし、
科学史上重要な本や、著者自身の研究において大きなターニングポイントとなった本を100冊取り上げる。
本書を通読すれば、自ずと「科学史」を辿ることになるのだ。

かといって、単なる歴史順に並んでいるわけではなく、
まずはアインシュタインの「自伝ノート」から始まる。
次はアリストテレスの「自然学」と、科学史家ならではの知識を踏まえて縦横無尽に展開していく。
ただ、(全く存じ上げないのだが、)文は人なり、
非常に読みやすく、簡潔にして丁寧、かつ明確な文章。関係する章があればそれも記載されており、
心地よく読み進めることができる。

そのうえで、科学史を知るうえで、一般的なイメージと大きく異なる点等が、紹介されていく。
例えば、次のようなことだ。

・コペルニクスが地動説を説いたが、その著書は、
 実のところ現代でいう科学的論拠によるものではなく、
 ルネサンス期という時代を踏まえて、地動説を「採用した」。

・ガリレオが地動説により迫害されたというイメージがあるが、
 「それでも地球は動く」と言ったことも虚構であり、
 むしろ当時のヨーロッパの最高権力者の多くがパトロンだった。

・西洋科学はヨーロッパ圏で発達したのではなく、
 むしろ一時期のイスラム圏が、
 ローマ時代の西洋知識とインド等の東洋知識を融合し、
 それがヨーロッパに逆輸入されたことが大きな影響となっている。

また、本書は、最新の科学書(だけ)を紹介するものではない。

むしろ科学史上スタンダードとなっているが、実際のところ現代では殆ど読まれない書物-、
例えばガリレオの「天文対話」、ニュートンの「自然哲学の数学的原理」、コペルニクス「天球の回転について」など。

また、「科学」「科学者」という存在が発生し、持続する背景となる学問-、
ヴィトゲンシュタイン「論理哲学論考」、プラトン「ソクラテスの弁明」など。

そして、人の営みとしての 「科学」を研究する上で重要となる、
「創世記」、「古事記」、「解体新書などと、非常に幅広い視野で選定がなされている。

数多あるブックガイドは、最先端か、有名なものに特化している。
だが本書は、科学史という確固たる土台の上に立ち、
現代の人類にとって、知識の「骨」となってる本を紹介してくれるものだ。
一人でも多くの人が、本書から、一冊でも「読みたい本」に出会えることを願う。
(こういう本こそ、学校図書館に必置すべきだ。)

なお、こうしたバックボーンがある著者が、一書から「学問」についての考え方を紹介している。
文系は役に立たないとか馬鹿なことを言っている時代への警鐘として、引用しておく。

学問は、科学を含めて、経済的な成功や、世間的な豊かさをもたらすものではなく、
一人の人間としての、人間性の豊かさを広げ、深めていくものである。


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