ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

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新発見が期待されるが、政治的な洞察力も必要だ。「水中考古学 - クレオパトラ宮殿から元寇船、タイタニックまで」  

水中考古学 - クレオパトラ宮殿から元寇船、タイタニックまで (中公新書)
井上 たかひこ



1980年代、それまで軍事技術に限定されていた広域を効率的に探査できるサイドスキャンソナーが、一般化された。
有名なタイタニックは、この技術で発見されたという。
また、2015年3月には、戦艦武蔵も発見されている。
科学技術の進歩と、一部の民間人が圧倒的な財力を持って活動できる現在、
海というフロンティアの探査はより盛んになり、歴史的遺物を発見することも増加するだろう。

そのような、水中に残っている歴史的遺物を調査することを、水中考古学という。
一般的に考古学と異なり、水中考古学は第二次大戦あたりの遺物をも対象とする。
その過程で、その遺物が誰のものなのか、という国家間の問題も発生している。

そうした法制度の問題は、「文化遺産の眠る海―水中考古学入門 (DOJIN選書)」(レビューはこちら)に詳しいが、
簡単に言うとユネスコの「水中文化遺産保護条約」では「原位置保存」が原則である。
すなわち、水没後100年経過したモノはこの条約の対象となり、
例えば沈没した日本の戦艦から、日本が遺骨収集することも原位置保存の原則に反し、条約違反となる。

また一方、もし海底資源の近くで水中文化遺産が発見されれば、水中文化遺産保護条約の義務によって、
その起源国に優先的権利が生じ、その海底資源探査は中止となる。
さらに、起源国の意見を聞きながら調査しなければならない。

アメリカ、イギリス、日本などはまだこの条約に批准していないが、
韓国、中国、スリランカなどでは水中考古学研究所や博物館の整備が進んでおり、
将来の批准を見越した条件整備という見方もできる。

特に中国は、まだ「水中文化遺産保護条約」に批准していないが、海洋政策の中心の一つに水中文化遺産研究を打ち立て、自国の沈没船が存在する他国の領海についても一定の発言権を持つという立場を明確にしはじめているという。

水中考古学は、こうした国際的な領海・公海制度を左右するインパクトを持っているのだ。

とはいえ、一方でやはり、「深い海底に沈んだ沈没船」は、ロマンの対象でもある。
本書は、まずはそうした水中考古学の愉しみ、成果を紹介するものだ。
副題にあるとおり、取り上げられているのは
クレオパトラが住んでいた都市アレキサンドリア、
ツタンカーメンのために運ばれていた貢物を満載した船、
ニュースにもなった福岡沖の元寇船、
トルコと日本の友好史の発端でもあるエルトゥールル号など、時代も国も様々だ。
それだけ、水中考古学というのがまだまだ端緒についたばかりということなのだろう。

また一方で、引き上げた遺物の分析・保存についても興味深い。
特に、過去の木造船を引き揚げた際の保存方法だが、
なんと30年程度かけてゆっくり塩分を抜き、PEG(ポリエチレン・グリコール)を浸透させ、乾燥させていくというもの。
膨大な経費と時間をかけてでも、そうした歴史的遺産を守り抜くというのが真の先進国と思うが、
果たして現在の日本は、そこまでできるだろうか。

元寇船も発見された「鷹島神崎遺跡」は、平成24年3月30日、日本で初めての水中遺跡として国の史跡に認定された。
だが、それに至るまで、30年以上にもわたる地道な研究があった。

日本は海洋国といいながら、水中考古学ではアジアの中でも後進国である。
これが将来、足枷とならないことを願う。

【目次】
第1章 ツタンカーメン王への積荷―水中考古学の曙光
第2章 元寇船の発見
第3章 海を渡った日本の陶磁器
第4章 中国の沈船、韓国の沈船
終章 千葉県勝浦沖に沈む黒船ハーマン号


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