ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

方向音痴に留まらない、優れたナビゲーション論概説。「なぜ人は地図を回すのか 方向オンチの博物誌」  

なぜ人は地図を回すのか 方向オンチの博物誌
村越 真



正直言って、東京の地下鉄が苦手である。
複雑な立体構造、駅ごとに特殊化された改札口、いきなり太くなったの細くなったりする通路と、
ダンジョンのようなつくりに、いつも圧倒される。
目的地により近い地上出口を求めて歩いていたら、次の駅に着いてしまったこともある。
そんなに方向感覚が悪い方ではないとは思うのだが、
「方向音痴」を自認する人々にとっては大変な苦労なのだろう。

本書は、そんな「方向音痴」について、様々な実験や研究をふまえ、
 ・何が欠けていることで「方向音痴」となのか
 ・方向音痴に実際に性差があるのか
 ・地図が読めない人は、どこが問題なのか 等々について、
その研究成果を丁寧に解説し、かつ先行研究などの論拠も丁寧に綴る、文庫でありながら専門的な本である。
それだけに、「方向音痴」について、確実な知識を得ることができる良書である。

何より本書で重要な点は、方向音痴は決して回復不可能な性質ではないということだ。

例えば、方向音痴ではない多くの人が無意識のうちに実践しているランドマークの把握や確認が、
方向音痴の人だとできていない、という事実がある。
もちろんそれは生まれながらの傾向ではあるものの、そうした事実を知れば、改善も可能なわけだ。

また、女性は地図が読めない、方向音痴が多い等の自己認識(や誤った社会通念)も、
方向音痴を加速(または無意識に自己肯定)する要因ともなる。

諸外国ではむしろ恥ずかしい性質とされる方向音痴を、
自らカミングアウトし、それどころかチャームポイントのようにすら言える日本だからこそ、
治せる方向音痴すら、「方向音痴は治せない」と、自分も社会も受けいれてしまうのだろう。

しかし著者が指摘するように、子どもや高齢者にとっては、方向音痴は命に関わる事態を招くことすらある。

たかが方向音痴と考えず(そうした軽視も日本独特の文化だ)、方向音痴と自認する方や、
身近な方の方向音痴を馬鹿にしている方にこそ、本書は読んでいただきたい。

また本書では、逆に方向を把握する達人たちの方向定位の術を紹介している。
例えば、ポリネシアやミクロネシアの海洋民族。簡素なカヌーで島影一つ見えない大海原を、
いかにして目的の島まで辿り付くのか。
漠然と「星を見ている」と言われるが、そこにはテクニックが確立されている。

さらに、車のカーナビ。
複数のGPS衛星を受信によって定位するというごく基本的なことだけでなく、
そのGPS電波を拾えなくなった場合の補完方法、
実際の地図上のルート検索など、なかなか興味深い。
さらに、巡航ミサイル。高速で飛行するミサイルが、いかにしてピンポイントの定位を行っていくか、
そしてそのメカニズムゆえの弱点は何かなど、
本書はヒトの「方向音痴」だけでなく、
地図と自身の位置定位等に関する、かなり大きなテーマまで視野に入っている。

多くの人に密接に関わるテーマなのに、なかなか体系的に知る機会のない方向音痴というテーマ。
文庫というサイズ・価格に対して、かなりコストパフォーマンスの高い一冊である。

【目次】
第1章 方向音痴大国日本
第2章 心理学から見た方向音痴
第3章 女性は方向音痴
第4章 地図を使いこなす
第5章 なぜ子どもや高齢者は道に迷いやすいのか
第6章 ナヴィゲーションの達人たちの秘密
第7章 カーナヴィも道も迷う―ハイテク機械のナヴィゲーション
第8章 方向音痴を「治す」には?
第9章 なぜ「治らない」、方向音痴
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