ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

「遭難者を救助せよ!」山頂は目標ではない。山岳警備隊員は、命のために登る。  

遭難者を救助せよ!
細井 勝



これまで、遭難事故に関する書籍をいくつか紹介してきた。
(例えば、
ヤマケイ新書 山岳遭難の教訓 --実例に学ぶ生還の条件--」(レビューはこちら)、「トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか (ヤマケイ文庫)」(レビューはこちら)
など。
だが多くの場合、その著者は当事者か第三者(山岳関係のライター等)だった。
ちょっと珍しい著者の立場としては、「いまだ下山せず! (宝島SUGOI文庫) (レビューはこちら)」がある。これは遭難者と同じ山岳会であり、捜索に関わった方だった。
そうした「捜索者」という立場があることを踏まえると、数多の遭難現場において、ほぼ必ず同じ現場に立つ捜索者がいることに気づく。
山岳警備隊である。

本書は、剣岳を要する日本有数の山岳地帯において、日々遭難者の救助に当たる富山県警山岳警備隊員の物語である。
ちょっと変わった書き方として、本書ではいくつかの突出した遭難事故を取り上げるのではなく-すなわち「遭難事故」が主役なのではなく- あくまで一人一人の山岳警備隊員を主役として描いている点があげられる。

本書では、富山県警察山岳警備隊の始まり、黎明期における、地元・立山町芦峅寺の山岳プロガイドとの関わりと巣立ち、救助ヘリの導入、警備隊員自身の殉職事故、そして執筆時点の中堅・新人である人々の警備隊員に成るための葛藤と決意などが取り上げられる。
これらが、警備隊一人一人の物語として語られ、それを幾重にも重ねることで、「富山県警察山岳警備隊」を語るという、見事な構成となっている。

特に、一般的なアルピニストと異なり、「職務」として山岳警備隊を全うするという山岳警備隊員の立場。
警察という公的組織であるがゆえ、外部からは「仕事で山に登れていい」とか「仕事だから救助するのが当たり前」等の見方もそれがちだが、彼ら一人一人も生まれながらに山岳救助隊員であったわけではない。
一人一人が、自身の命だけでなく、家族の人生までも巻き込んだ決断である。
彼らの決断の重さを、本書でしっかりと見届けておきたい。

ところで、以前なら、まず山に関する情報や道具を手に入れるためには、専門誌や専門店に行く必要があった。
そうした場では、目的の情報だけでなく、関連する情報も否応なく入ってくる。
そして、先人による指導や評価があり、その上で目指す山に向かった。
つまり、それだけの熱意と努力が無い、山への漠然とした憧れ如かない僕のような人間が、一人で山に向かうことが不可能だった。

ところが最近は、情報・道具の入手が極めて容易になった。
また、目指す山のみに限ったピンポイントの情報だけが入手でき、現地へのアクセスも容易となった。
すなわち、山屋である先人と一度も接触せず、独力で山へ向かう人も有り得るだろう。
また、過去に多くの山屋が歩んできたステップを踏むことなく、いきなり「憧れの山」へ向かう人もいるだろう。

そうすると、もちろん全ての層がそうとは言えないものの、
以前なら様々なハードルによって弾かれていた層までも、目的の山へ進めることになる。
そこに潜む遭難の危険性と言うのは、むしろ以前より高まっているのではないか。

一方、本書で気づかされたのだが、近年は大規模な遭難、複数の遭難、異常気象など特筆される要件が無い限り、あまり遭難事故について報じられること少ない。

だがそれは、おそらく、登山者の力量等が向上し、遭難事故が減少したためではない。
山岳地帯での情報伝達の効率化、ヘリ等による救急搬送、そして本書のような山岳警備隊の効率化が進んだため、悲惨な事故に至る前に救出されるケースが多いためだろう。

山のエキスパートである山岳警備隊ですら、救出ヘリの向上や装備の高度化により、かつてのような力・技を維持することが難しくなりつつあるという(だからこそ、時代錯誤ともとられかねない過酷なトレーニングを行っている)。

一般人が、そうした救助体制や道具の進化に甘えて、安易な知識・装備や明らかな体力不足等で山に向かえば、
遭難事故に陥るか否かは、本当に運・不運に過ぎなくなる。
そして一度事故に陥った場合、山岳警備隊員の限られた救出力の一部を削ぐとともに、最悪の場合、彼らの命までも危険にさらすことになる。

もちろん山では、不可抗力の事態も多い。
全ての判断・行動に責任を問うことも、現実的ではないだろう。
だから、遭難事故に遭う方全てに責任があるとは、もちろん思わない。
ただ少なくとも、本書を踏まえ、山岳警備隊に甘えた行動・判断だけは行わないよう、山へ向かう人々にお願いしたい。

【目次】
第1章 鉄人たちの涙
 道はヒマラヤに通じていない
 僕は神の奇跡を信じている
 助けたい、この子もいずれ母親になる
 暗転の登山がもたらした葛藤の日々
第2章 全員無事帰還せよ
 登山の大衆化から生まれた山岳警備隊
 指揮官たちが語る壮絶な生還ドラマ
第3章 こちら山の派出所、ただいま異常なし
 「僕はここで一人前になります」
 誰かが鬼の教官にならなければ…
 パトロール場所は標高三〇〇〇メートル
第4章 命預けあう山の隣人たち
 北アルプスに「神の翼」が舞い降りる
 育ての親は山岳ガイドの男たち
 山と人を愛した半世紀の診療奉仕
第5章 僕らも隊員になっていいですか?
 北アルプスで味わう基本給二〇万円の幸せ
 僕も人命救助の仕事に就きたい
 除隊して望んだのは刑事の世界
第6章 登頂なきアルピニスト
 転職で得た山の天職
 「自分たちは登山家じゃない」

レビューはこちら


レビューはこちら


レビューはこちら

関連記事
 このエントリーをはてなブックマークに追加

category: 事件・事故

thread: 読んだ本の紹介 - janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://birdbookreading.blog.fc2.com/tb.php/614-bbec7337
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

中の人

アクセス

RSSリンクの表示

最新記事

カレンダー

アクセスランキング

月別アーカイブ

ブロとも申請フォーム