ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

「カバに会う―日本全国河馬めぐり」明日は、カバになりたい。  

カバに会う―日本全国河馬めぐり
坪内 稔典



何も考えず、動物園の動物を5種あげてみよう。
僕は、「ライオン、キリン、ゾウ、トラ、カバ」だった。
人によっては、ゴリラが入ったり、サイが入ったりするかもしれない。
「ライオン、キリン、ゾウ」あたりは不動の3種と思うが(トラ派の人ごめんなさい)、
カバは-、正直、サイと一緒に5~7位を争うあたりかもしれない。
動物園の記憶を思い出しても、カバの姿は思い浮かばないのである。

野生だと非常に危険な動物だと聞いているものの、
動物園だと、コンクリートの広場と汚れたプールのどちらかで、たゆたうカバ。そんな感じだ。
正直、「カバを見よう」と思ったことはない。

だが、著者は思ってしまったのである。
カバに会おう。それも、日本中のカバに会おうと。
そしてカバの前で、1時間はいようと。

雑事に追われる日々からすれば、とても贅沢で、素敵な時間の使い方である。羨ましい。
じっと見ていれば、野生動物は様々な姿を見せてくれるものだ。

普通は。

カバは、じっとしている。これほどカバを愛する著者が訪れたところで、
特筆すべき行動(といっても、「変わった」行動ではない)をしてくれたのは少ない。
多くは、「プールに沈んだまま」「寝転がっていた」「いっこうに動かない」。
さすがはカバである。泰然自若というか、悠悠自適と言うか、自暴自棄というか。

そんなカバとの出会いの繰り返しの本が面白いのかと思われるだろうが、
実は何とも味わい深い本なのだ。

著者は、俳人。「マシュマロジージ」とお孫さんに呼ばれる程度の御年齢だ。
カバを愛するあまり、自身が代表を務める俳句雑誌「船団」の特集で、
全国の会員に日本各地のカバに会ってもらい、「日本河馬図鑑」という特集を組んだほどである(「船団」1994.3)。素晴らしい。

そして本書は、それらのカバに会う旅だ。
「日本河馬図鑑」の時には◯◯さんが出会ったカバ。
△△動物園のカバの子ども。
まるで、文通(例えが古いですね)でしか知らない旧く長き友に会いに行くようなときめきが、ある。

また、先々で引かれる様々なカバの句。

「桜散るあなたも河馬になりなさい」(坪内稔典「落下落日」)
「春を寝る破れかぶれのようにカバ」(同)
「水中の河馬が燃えます牡丹雪」  (同)

著者によるこれらの句を始め、多くの人が、カバを通して季節を、人生を、その刹那を詠んでいく。

生物好きが動植物に会った時は、識別であったり、形態であったり、
どうしても「その種が何か」を見ようとすることが多い。
それは確かに楽しみ方の一つではあるものの、
著者のように、ただ出会いを楽しみ、その刹那の情景を心に刻むことも、また素敵ではないか。

人生は色々あるし、日々の生活も大変である。
人それぞれ、悲しみも苦しみもあるだろう。
だが、一度きりの人生。カバになる時も必要だ。

「桜散るあなたも河馬になりなさい」

「誰もがカバになれるのだよ」と、ネンテンさんが囁いているようだ。

【目次】
1 わか目もふらずカバのもとへ―九州篇
2 カバに触った!―中国・四国篇
3 糞がちりますカバの園―近畿篇
4 ゴッドファーザーの末裔―中部篇
5 河馬の馬鹿―関東篇
6 カバに近づく―東北・北海道篇
7 あなたも河馬になりなさい―番外篇
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category: 哺乳類

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