ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

森閑とした雪の村を、巨大なヒグマが襲う。「慟哭の谷 北海道三毛別・史上最悪のヒグマ襲撃事件」  

慟哭の谷 北海道三毛別・史上最悪のヒグマ襲撃事件 (文春文庫)
木村 盛武



1915年(大正4年)12月。
北海道苫前郡苫前村、三毛別御料農地の更に奥地、六線沢という地において、
一頭の巨大なヒグマが、開拓時代の寒村を襲った。
子を殺し、女性を喰い荒らす。
通夜の中を襲い、逃げ惑う人々に爪や牙をたてる。
ひっそりと、だが慎ましく支え合って暮らしていた山奥の村で、7人が死亡し、3名が重傷を負った。
この事件を、「三毛別羆事件」(さんけべつひぐまじけん)と呼ぶ。

吉村昭氏の「羆嵐 」は、この事件を取り上げたものだ。初めて読んだのは、20年以上前になる。
惨状を冷徹な目で伝える吉村氏の描写。まるでその場に居合わせていたかのように細部を捉える視線。
森と雪の深さ。巨大なヒグマに翻弄される人々の心細さ。
北海道の開拓時、このような事件があったという事実に驚き、
その恐ろしいまでの臨場感に、文字通り手に汗を握って一気に読んだ記憶がある。

ただ、「羆嵐 」は良い意味で、極めて優れた小説である。
小説として完結させるためには、事実を確認できない部分については、吉村氏が補完せざるをえない(その補完が事実そのものように感じられるほどリアルなところが、吉村氏の真骨頂と言える)。
それに対して、本書はノンフィクション、報告書である。
実際のところ、吉村氏の作品に先行して本書は刊行されたものですらある。

著者は林務官として勤務する傍ら、事件の当事者らに話を聞き、また当時の新聞等を確認して、この未曽有の獣害事件の詳細を掘り起こして行った。
掲載された生々しい描写、人々の苦しみや悲しみは、事実そのものである。

また、第2部以降に収録された内容が、著者のスタンスを明確にしている。
自身が若い頃に経験した事件。勤務中に生じた数々のヒグマとのニアミスなど、
数多の事件から、ヒグマによる被害を避けるための教訓を見つけ出そうとするものだ。

これほど多数の人が襲われる事件はもう起きないかもしれないが、
少人数のパーティなどがヒグマと遭遇し、被害に遭うことは未だ続ているという。

著者の願いであるヒグマ被害の軽減のためにも、
また、北海道開拓時の惨劇を忘れないためにも、本書や「羆嵐 」は、長く読み繋がれていくべきだろう。

ただ唯一残念なことがある。
おそらく、北海道開拓時以前に、アイヌの人々も同様な被害に遭っていたことと思う。
その悲しみは、歴史の彼方に埋もれ、二度と知ることはできない。
また、世界中でも、クマによる獣害は跡を絶たない。
これらの、これまでヒグマに襲われた名も残らぬ人々の鎮魂を願うとともに、
著者と同様、それが一件でも減少することを期待したい。

【目次】
第1部 慟哭の苫前三毛別事件
 惨劇の幕明け
 通夜の亡霊
 大討伐隊
 魔獣の最期
 史上最悪の惨劇を検証する
第2部 ヒグマとの遭遇
 北千島の人食いヒグマ事件と私
 ヒグマとの対峙
 ヒグマが人を襲うとき


関連記事
 このエントリーをはてなブックマークに追加

category: 事件・事故

thread: 読んだ本の紹介 - janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://birdbookreading.blog.fc2.com/tb.php/611-7dee5529
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

中の人

アクセス

RSSリンクの表示

最新記事

カレンダー

アクセスランキング

月別アーカイブ

ブロとも申請フォーム