ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

「似せてだます擬態の不思議な世界」擬態を、分子から探る!  

似せてだます擬態の不思議な世界 (DOJIN選書 2)
藤原 晴彦



進化史において、眼の誕生がエポックメイキングな出来事であったとすれば、
同時に眼による捕食を避けるための擬態も始まったのだろう。

擬態といえば、無害種が、有毒生物など危険種に似る「ベイツ型擬態」、
危険種が類似する「ミューラー型擬態」、
獲物を得るために何かに偽装する攻撃型の「ペッカム型擬態」などがある。

こうした擬態の妙には驚かされるばかりだが、
「なぜこれほど類似の模様が形成されうるのか」というのは大きな疑問だ。

もちろん、選択圧によって淘汰された結果だというのはあるとして、
その模様なり形が、いかなるメカニズムによって形成されるのかというのも興味あることろだ。

擬態に関する本は多いが、本書はその形成メカニズムについて、分子生物学、発生学の立場から解説されている点が面白い。

例えばコノハギスという昆虫。
この昆虫では、個体ごとに体の一部が枯れ落ちて消失した葉のようになっており、そのパターンは個体によって異なっている。
このように、個体によって体の一部を欠くという発生のメカニズムが成立していることが不思議であると指摘する。
なるほど、確かに世の中を見回せば、同種は基本的に同じ形だ。
あえて常に一部を様々に欠損させるというメカニズム、ちょっと普通では思いつかない。

また、タテハモドキ、ジャノメチョウなどの翅の目玉模様は、ディスタルレス(Dll,Distal-less)という遺伝子セットによるという。
この遺伝子は、実は肢や翅を作るのと同じツールキット遺伝子(ある特定の働きをする遺伝子セット)であり、ショウジョウバエの肢から見いだされた。
一見、目玉模様と脚は関係が無さそうに見える。

ところが実は、ショウジョウバエの肢は同心円状の構造を作り、その中心を伸ばしたような構造であり、目玉模様も同心円状。
Dllという遺伝子は、最初円の中心部で発現し、そこから何らかの物質が同心円状に広がり、Dllの発現を誘導するもの。
「同心円状構造」という点での共通性、単なる模様ではなく、器官的な意味がある。
このため、目玉模様において、Dllが発現している途中で同心円の中心を焼くと、以降Dllによる拡散がなくなるため、同心円は小さいままになるという。

さて、こうした反応拡散による模様形成といえば、チューリング・パターンである。
現在のアルゴリズムによるコンピューターの元となるシステムを開発したアラン・チューリングは、また、ある種の物質が、波のように体表面を拡散することで、様々な動物の模様が作り出されていると提唱した。
この不均一な反応拡散系のパターンをチューリング・パターンという。
本書でも示されているが、近年検証が進み、現実に成立しているモデルと認識されつつある。
今後、動物の模様形成を探るうえで欠かせない基礎知識となるだろう。
(このチューリング・パターンによる模様形成については、本書でも指摘されているが、近藤滋による「波紋と螺旋とフィボナッチ: 数理の眼鏡でみえてくる生命の形の神秘」(レビューはこちら)が詳しい。というか、面白い!)

この他、本書ではカイコ、視覚以外での擬態など、様々な擬態に関する話題が展開される。
全てにおいて分子生物学的知見が盛り込まれているわけではないが、
擬態に関する最新知見を知ることができる一冊である。

【目次】
プロローグ―擬態とは何か
第1章 だまし・だまされる生きものたち
第2章 だましのテクニック―標識型擬態と隠蔽型擬態
第3章 紋様をつくりだすしくみ―擬態の分子メカニズム
第4章 擬態するカイコ
第5章 アゲハに見る擬態の不思議
第6章 だまされるものか―擬態を見破る苦労
第7章 視覚以外の五感でだます
第8章 分子も擬態する―相互作用を真似る世界
エピローグ―人間社会におけるだましのテクニック

レビューはこちら


▼アラン・チューリングは、ドイツの暗号機エニグマの解読物語も有名。
 ベネちゃんがはまり役でした。

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