ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

「kupu‐kupuの楽園―熱帯の里山とチョウの多様性」地道なフィールドワークこそが、全ての始まり。  

kupu‐kupuの楽園―熱帯の里山とチョウの多様性
大串 竜一



著者は亜社会性の狩り蜂であるハラボソバチの研究者。
だが、1995年から1997年にかけて、国際協力事業団(JICA)の長期派遣専門員として、インドネシアの西スマトラ州バダンに赴任した。
目的は、「野外生物学における研究協力と研究者養成」。
その一環として、ごく身近な昆虫相を記録することとして、センター近辺のウル・ガド地区、
そこからやや山間部に入ったガド山地区において、約2年間、定期的にチョウを採集し、記録していった。

調査が軌道にのった22ヶ月の間に、ウル・ガド地区では、8科83種3377個体を捕獲。比較対象としたガド山地区では8科80種362個体した。
捕獲したのは、熱帯のチョウとして有名なトリバネアゲハではなく、ごく普通のキチョウ類などだ。
だが、現地のごく普通種を、もれなく丁寧に記録することに、大きな意味がある。

著者は、自身の研究スタンスを次のように語る。

自然そのものをできるだけ詳しく記録すること
同じ場所を長期間にわたって繰り返して観察すること


ともすれば希少種を追いがちだが、それは実は、多くの人が目指す道である。
そのため、希少種ほど、標本・データは揃いやすい(また、減少もしやすいのだが)。

一方で、著者の目指す「地に足のついた」研究は、実は相当の力が無いと難しい。
そのため、インドネシアはおろか、日本各地においてもなかなか類似のデータは無い。
だが、地域の生物相を問題とするときには、こうした全種調査こそが役に立つ。

著者自身も、その調査を通じ、温帯に比べると高い多様性を誇る熱帯アジアの蝶群集を実感するとともに、
森林種の減少と草原種の進出・繁栄、
そして識別が困難で、一見同所的に生息しているキチョウ類が、
種によって生息場所や季節(熱帯なので四季はないが、それでも季節的と言える時期的な)により増減していることを明らかにする。

巻頭には、98枚のカラー写真。6枚の風景写真も含むものの、他は本書で紹介される、インドネシアの「身近な蝶」だ。

淡々とした記録が続き、突出した理論や発見があるわけではない。
また、大きな冒険が繰り広げられるものでもない。
本書に含まれるのは、インドネシアのローカルな記録に過ぎない。

だが、それは二度と得られないデータである。

データを得て、残すという事の重要さ、
そして本当に基礎的なデータを得るために必要となるフィールドワークを、本書は伝えてくれる。

極めて地味な本ながら、動植物調査を志す人には、読んでおいていただきたい一冊である。

【目次】
1 西スマトラ、自然と人々
2 研究の始まり
3 熱帯アジアの蝶と向かいあって
4 多雨熱帯の山と村
5 スマトラのチョウ-その生活と行動
6 熱帯のチョウの四季
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今年の記事は、これで終了です。

いつもご訪問ありがとうございます。

今年の読書冊数は約240冊、おかげさまで週2冊紹介するペースは維持できました。
2015年に紹介した本のベスト10!とかしたいなぁと思っていたのですが、
年末の雑事に追われて、ちょっと無理なようです。

皆様が、来年さらに健康と幸福に恵まれますよう、香川県からお祈り申し上げます。
それでは、よいお年を!!
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