ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

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「殺人鬼ゾディアック――犯罪史上最悪の猟奇事件、その隠された真実」 正体に迫ることの、恐ろしさ。  

殺人鬼ゾディアック――犯罪史上最悪の猟奇事件、その隠された真実
ゲーリー・L・スチュワート,スーザン・ムスタファ



「ゾディアック」を知らない人は、日本では多いのではないか。
1960年代後半から1970年代前半までに、サンフランシスコを中心として発生した連続殺人事件の犯人が、自称ゾディアック。
事件は未解決である。
連続殺人は(残念ながら)珍しくなく、ゾディアックが活動した時代も、相当ひどい事件がアメリカでも立て続けに起こっている。
ただ、逮捕されていない連続殺人犯として、犯罪関係の書物でよくジャック・ザ・リパーと並ぶのが、ゾディアックである。
ゾディアックを他と隔てているもの、それは暗号による多数の警察等への挑発行為など、
単なる暴力への執着ではなく、「常軌を逸した高い知性」を感じるからだろう。

ゾディアックによる確実な犯行は5または6件(日本語版Wikipediaでは5件、本書ではその前の1件も含む)。
死亡者は5人または6人だ。
事実かどうかは分からないが、 ゾディアックの主張によれば、37人の被害者がいるという。

その人数もさておき、前述したとおりゾディアックを他の未解決事件と異質なものとにしているのは、
その自己主張である。
殺人を犯すたびに犯行声明を出し、自身の名を隠した暗号文を同封し、警察に挑戦してくる。

多くの郵便物、目撃者や生き延びた被害者による似顔絵。
だが、現在に至るまで犯人は確定していない。
ゾディアックは、アメリカにおける連続殺人鬼の象徴にすらなっている。

さて、本書の著者ゲーリ・L・スチュワートは、実父母が秘せられる匿名の養子として育てられてた。
養父母は信心深くて優しく、ゲーリーはごく真っ当な人物に成長している。

だが2002年、ゲーリーが39歳の時、養父母から告げられる。

「サンフランシスコに住んでいる、お前の母親という人から、電話がかかってきたんだ。」


ゲーリーは実母に会う決心をし、母との和解に至る。

母は、サンフランシスコでの最も初期の、かつ成功した黒人刑事と再婚していた。
そこでゲーリーは、母と同様に父とも和解できるだろうと思い、続いて父も探し出そうとするが、
なぜかサンフランシスコ警察は協力を拒む。

不思議に思っていた中、TVでたまたま放映されていた未解決事件の特集番組で、連続殺人鬼ゾディアックの似顔絵が映し出される。
ゲーリーは、思わず息子のザックを呼んだ。

「わあ、パパ、あれパパじゃん!」彼は叫んだ。
私は椅子から立ち上がり、書斎に行ってプリントアウトした父の写真を取り上げ、リビングに戻った。
「パパじゃないよ、ザック」写真からテレビ画面へ、また写真へと視線を行き来させながら言った。
「あれはパパのお父さんだ」



ゲーリーの探索は、思いがけない過去を掘り出していく。

実父、アール・ヴァン・ベスト・ジュニア(EARL VAN BEST JR.)は、
当時14歳だった実母ジュディを見染め、駆け落ち(傍目には誘拐)したこと。
その誘拐事件は「アイスクリーム・ロマンス」という名称で、大々的に報じられていたこと。
自分(ゲーリー)は、その逃亡の中、生後4週間で実父アールに捨てられたこと。
実母ジュディはアールから逃げ、それを裏切りと感じたアールが警察に通報した結果、実母ジュディが保護されたこと。

実父アールと、連続殺人鬼ゾディアックに、共通点が多々あること。

オペラ「ミカド」への愛着。
被害者の女性が、実母ジュディに似ていること。
様々な犯行声明等の月日が、アールとジュディのアイスクリーム・ロマンスの諸々の出来事の月日と一致すること。
アールが刑務所に入っている期間だけ、ゾディアックの犯行が止まっていること。
行動圏が一致すること。
父が若いころ暗号に凝っていたこと。
悪魔崇拝的な教義に惹かれていたこと。

そして、ついにゾディアックの暗号の中に、父の名前が記載されていること、指紋の傷が一致することに辿り付く。

一方、実母ジュディの再婚相手は、まさにゾディアックを追っていた黒人刑事だった。
ゲーリーは、母の再婚相手である黒人刑事の死後、その評判を汚さないために、父アールの記録は伏せられ、ゾディアックの追及はストップしているのではないか、と疑う。

本書に記載された、アール・ヴァン・ベスト・ジュニア =ゾディアックが事実か否か、
それは客観的な結論は出ていない。またネットで見る限り、他にも「実父が…」「知人が…」など、
ゾディアックは実は誰々でした、という話はかなり多いようだ。

ただ、僕としては本書に記載された多々の証拠(らしきもの)もさておき、
何よりも、本書著者ゲーリーの個性に、ゾディアックとの共通点を感じた。
もちろん、実母・実父を探索したいという欲求は強いだろうが、それでもここまでするだろうかという行動力・執着心。
これが父譲りのものであり、そしてその行動力・執着心が誤った方向に向けられていれば、
ゾディアックという結論もあるかもしれない。
今のところ、ゾディアックが誰かは、それぞれが結論を出すしかない。

ところで、これほどショッキングなテーマだが、本書はおそらく別の点に価値がある。

「アイスクリーム・ロマンス」と言われ、全米を騒がせた利己的な行動の果てに、捨てられた一人の子ども。
そのまま死んだり、荒んで成長してもおかしくはない。
しかし養父母の愛が、彼を正しく成長させた。
「ゾディアックが誰か」という謎解きを抜きとしても、
実母とゲーリー、養父母と他の養子、養父母とゲーリー、ゲーリーと息子ザックといった、
様々なかたちの親子が、互いに赦し、守りあう物語である。
人は、生まれで人格の全てが決定するのではない。

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category: 事件・事故

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