ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

一瞬の妖精を追い求めて。「NHKスペシャル 宇宙の渚―上空400kmの世界」  

NHKスペシャル 宇宙の渚―上空400kmの世界
NHK取材班



地球大気の質量の約80%が存在すると言われる対流圏。その上端は高度約10km程度。その上空には成層圏が広がる。
その境界線付近を長距離旅客機が飛行していることから、通常、僕たちが関わる限界高度は約12km程度といったところだろうか。
高度15kmを超えると空の色は宇宙の色に変わり始めるという。

空気も極めて薄く、通常到達しえない高度10数km以上の世界。
そこを本書の元となったNHKスペシャルの担当者は、「宇宙の渚」と呼んだ。

本書は、その宇宙の渚を舞台とする自然現象、
スプライト、オーロラ、流星を主題とするもの。

オーロラと流星は言葉としては馴染み深いが、そもそも、「スプライト」とは何だろうか。

第二次世界大戦中、パイロットは雷雲の上で、垂直に立ち上がる発光現象を目にする。
誰も信じてもらえず、目の錯覚や「奇跡」として捉えられていた。

一方、1927年、ノーベル物理学賞受賞者のC.T.ウィルソンは、
雷が発生した際、その電気エネルギーは雷雲から宇宙に向かっても放出され、
その時、幾筋もの「電子をいざなう道筋」(電気力線)が形成されるというメカニズムを提唱していた。
この電気力線に沿って移動する電子は、大気中の窒素分子と衝突し、赤い光を発光するという。

このように、肉眼での観察と、理論があったものの、これらが結合して認知されることはなかった。

そしてようやく1989年に初めてビデオ撮影され、論文として発表された1990年以後に「スプライト」(妖精)という発光現象として認知されるに至った。
極めて最近に認知された自然現象なのである。

このスプライトを、宇宙から撮影しようという試みが、かつて存在した。
2003年、スペースシャトルに乗っていたイラン・ラモーンである。
このプロジェクトが成功すれば、おそらくスプライトに対する一般的な認知は、
もっと進んでいたかもしれない。
2003年2月1日、ラモーンが乗っていたスペースシャトル・コロンビア号は、爆発事故によって失われてしまった。

事故後回収されたカメラには、ラモーンが撮影していたスプライトの映像が残っていたという。

今回のNHKスペシャルでは、2011年にISSに滞在した古川聡飛行士に、宇宙からスプライトを撮影することを依頼した。
ラモーンの志を継ぐこととなった撮影に、古川飛行士は成功する。
本書では、その映像がカラー口絵で紹介されているが、こうした物語を踏まえて見ると感無量である。

Googleでも、「スプライト 雷」で画像検索すると見ることができるので、ぜひ確かめてほしい。

さて、そのスプライト。自然現象としても、極めて意義深い。
スプライトが消えたあとも、その電気力線は維持され、
電子を宇宙の渚に放電し続け、おそらくその電子は電離圏に蓄えられている。

最近の研究では、この電子の動きが雲を形成する要因となり、
地上の天候にまで影響しているのではないかとも見られている。

すなち、スプライトは、地上の大気現象である積乱雲・落雷現象が、太陽風やオーロラなどと関係する高度100km以上の電気現象と直結するケースがあることを示しており、1930年代に示されたが停滞している全地球電流系の再考を促すものと言える。

この地球における電流系、そして電気があるところに磁場ありだが、
その磁場と際めて密接に関わっているのがオーロラである。

詳しいメカニズムは本書をお読みいただきたいが、太陽から放出された太陽風を地球の磁場がブロックしている状況、
そしてそれでも侵入する大量の電子が、大気中の酸素や窒素で無力化される際に発光するのが、オーロラだ。

オーロラの美しい光を見るとき、そこに神秘さや荘厳さは感じるが、
宇宙レベルでの攻防までも感じることは、なかなかできない。

だが本書で紹介されているとおり、かつては大規模な太陽フレアによって電子が大量に降り注ぎ、
極めて大規模なオーロラが発生(オーロラ爆発)、それによって発生した誘導電流によって大規模な停電が発生したことがある(1989年3月13日、カナダ)。

こうした事態が今後も起こらない、という保証は全く無い。

オーロラにしてもスプライトにしても、電子や磁場といった目に見えない自然現象を、「光」というかたちで感知できるものだ。
そして「光」といえば、流星もそうである。

本書を貫くイメージは、夜の中の光。
地球の自然現象のメカニズムを理解するためには、今後はこうした電子・磁場の観点は欠かせないだろう。

【目次】
第1章 謎の閃光 スプライト
第2章 天空の女神 オーロラ
第3章 46億年の旅人 流星

▼オーロラについては、こちらも詳しい。(レビューはこちら)

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