ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

「ウイルス感染爆発」 エボラの悲劇は、まだ終わっていない。  

ウイルス感染爆発
NHK「エボラ感染爆発」取材班



2014年に、西アフリカで大流行した報道がなされた、エボラ出血熱。
現在、日本で関連情報をマスメディアが流すことは、たぶん無い(少なくとも、僕は見ていない)。
恐ろしいのは、自分が今日までそれに気づかなかったこと-無意識的にせよ、「対岸の火事」と感じていることだ。

本書のレビューに先立ち、思い立って外務省の海外安全ホームページを確認した。

2015年10月末現在、WHOによれば、10月4日までの全世界の感染者数は累計で28,457人、うち死亡者数は11,312人。
流行が激しいのは、ギニア、シエラレオネ、リベリアだ。
このうちリベリアは、一度終息宣言を出したが再流行、そして現在はまた終息宣言に至っている。
それでも、10,666人が感染し、4,806人が死亡している。

そしてギニア。
感染者数3,804人(確定患者数:3,344人)、うち死亡者数2,534人
シエラレオネは、感染者数13,945人(確定患者数:8,704人)、うち死亡者数3,955人。
しかもこれらの国では、新規感染者は減少しつつあるものの、10月時点ではまだ終息には至っていない。

西アフリカエボラ出血熱流行は、終わっていない。

ところが、おそらく日本では「過ぎた出来事」と認識されている。
もちろん、日本も世界も日々新たに重大事件が発生しており、メディアも人々も、最新情報を追うだけで精一杯とも言える。
だが、そうした「仕方ないだろう」という姿勢が以前から続いていることこそが、今回の大流行の遠因ではなかったのかと、本書を読んで感じた。

本書は、1997年5月刊行である。エボラ出血熱のアウトブレイクがテーマだが、実は今回のアウトブレイクではない。
取り上げているのは、1995年ザイール(現コンゴ民主共和国)で発生したアウトブレイク。
2か月のアウトブレイクの期間中、318名が感染し、280名が死亡(致死率88%) した。
(なお、本書時点では317名感染・245名死亡。)

今回の規模とはケタが違うとはいえ、
エボラ出血熱のアウトブレイクとしては、当時最大規模のものだった。

本書はNHK取材班が、当時の状況を関係者にインタビューし、時系列で再現するもの。
同じ手法が、「世界を救った医師―SARSと闘い死んだカルロ・ウルバニの27日 (NHKスペシャルセレクション) 」(レビューはこちら)でも使われている(むしろ時系列としては、本書の出来事の方が先だ)。

ところが、読み進めるにつれて、激しい既視感に襲われた。
原因不明の死亡者。
月次と倒れていく病院関係者。
崩壊する現場の中で、一人事態の重大性に気づき、最前線に留まりながら、
サンプルや情報を政府や西欧圏の感染症研修者に届けようとする姿。
重大性に気づかない政府。
ようやく事態を把握するWHOとCDC…。

正体不明の感染症に、たった一人の医師が孤軍奮闘する状況は、本来有るべきものではない。
もちろん、それが初めてなら仕方がない。
だが、この1995年のエボラ出血熱の大流行時、こうした事態の混乱があったと認識しながら、
その教訓がきちんと活かされなかったこと-、それこそが、SARSの際にカルロ・ウルバニ医師が死亡する遠因となったとすら感じられる。

そして、今回の2013年12月から続くアウトブレイクにも。

NHK取材班は、現地取材の締めくくりに、こう記している。

 外国の医師団がもたらした、豊富な医療器材はしばらくして底をついた。各病院は、かつてのような物不足の状況に陥っている。患者を隔離していた総合病院の第三病棟は、患者の血液で汚染されたベッドのマットレスを廃棄したため、患者を受け入れることができない。一日中動いていた発電機は、燃料不足のため、以前のように手術をするとき以外は使えなくなった。
 キクウィト第二病院の検査室では、常時手袋を着用するようになったものの、予備がないため、同じ手袋を消毒して何度も使い回ししている。穴が空いても代わりの手袋は手に入らない。ピペットも、相変わらず口で吸うタイプのものしかない。
 この脆弱な医療施設を、再びエボラウイルスが襲ったらどうなるのか。彼らは確かに、知識と言う貴重な武器を得た。しかし凶暴なウイルスから身を守る手段は、依然として不足したままである。



もちろん、2013年のアウトブレイクはギニア発と言われ、今回の現場とは異なる。
また、コンゴ民主共和国(旧ザイール)でもエボラ出血熱が一部流行したが、大規模なアウトブレイクを引き起こしている株とは異なるようだ(複数株が同時期にアウトブレイクになれば、それこそ恐ろしい事態なのだが)。

だが今回、いや今もアウトブレイクに瀕している地域も、
いずれ、NHK取材班が1995年のアウトブレイク後に見たような状況になるのではないか。

2015年8月、エボラに対するワクチンが開発されつつあるという報道がなされた。
一方で、エボラから回復した男性患者の精液中に、最長9カ月間ウイルスが残ることがあること、
また、回復した男性からパートナーの女性に感染し、その女性が死亡する事例が確認された。

エボラ出血熱のアウトブレイクは、過去の出来事ではない。
また仮にワクチンが出来たとしても、アフリカでどのように接種率を高めるかも課題だろう。
エボラ出血熱を始め、新興感染症や再興感染症など、
終わったと思っていた感染症と人間の戦いは、実はまだ始まったばかりのようだ。
ただ少なくとも、その戦いをたった一人の医師に担わせるという状況は、二度と繰り返してはならない。

【目次】
第1章 噂
第2章 襲われた病院
第3章 エボラだ!
第4章 謎のウイルス
第5章 血液サンプル
第6章 孤立する町
第7章 ウイルス確認
第8章 ウイルス封じ込め作戦
第9章 キンシャサの恐怖
第10章 終息への道
第11章 残された謎
第12章 熱帯からの逆襲

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