ちょっとヨクナレ ~読書と日記~

自然科学、歴史、ノンフィクション等の読書記録

虫の虫  

虫の虫
養老 孟司



養老氏の昆虫もの本としては、「養老孟司のデジタル昆虫図鑑」(レビューはこちら)に続き、二冊目の読了。

前半は虫についての思索、後半は日経ビジネスオンラインのブログを加筆修正した、ラオスでの昆虫採集紀である。
この昆虫採集旅行にはカメラマン等が同行していたため、動画も撮影されていて、それを収録したDVD付バージョンもある(「虫の虫 DVD付き特装版」)。
すなわち、まずこのブログの書籍化があり、前半を追加したものである。

前半の思索部分は養老氏の考えが展開されるものの、綿密に理論化されているものでもないし、
正直なところ、昆虫観なんて人それぞれである(養老氏もそんなニュアンスで書いているように感じる)。

とりあえず1つ、興味深かった点について。
昆虫の大きさについて、田村克穂氏が「原色日本甲虫図鑑Ⅱ~Ⅳ」掲載の本州産約5000種を、
大きさでグラフ化した作業が紹介されている。
そのグラフは、0.5mm程度~40mm程度の正規分布で、そのまま山なりにすると約5mmくらいがピークとなる。
ところが、その理論的な正規分布の山に対して、現実に記録されている種数のグラフは、やや山の山頂部分が欠ける結果となる。
この欠けた部分が、実は約1000種程度の未知種で補完されるのではないか、という指摘。
様々なニッチに隙間なく入り込んでいる昆虫だからこそ類推できることと思うが、
「大きさ」から「個体数」を推測するという手法は面白い。

さて、本書のメインはやはり後半のラオス道中記。
様々な写真、また新種発見等、話題がたくさんあり、昆虫採集そのものに興味が無い人でも楽しめるだろう。
なお、こちらにも養老氏の見解が随時挟まれているが、実体験を契機に展開される部分もあり、
前半よりもはるかに現実的である。

例えば、昆虫採集の魅力について。
p104

 たかが虫一つでも、どういうところにいるのか、それを自分の眼で確認するには時間がかかる。その作業が大変かというなら、まったく逆である。楽しくて仕方がない。ああではないか、こうではないか、あれこれ考えながら、あちこち巡って採集をする。これが私の場合には、昆虫採集の醍醐味である。
(略)
 あれこれ続けているうちに、わずかずつとはいえ、ものがわかってくる。五里霧中、西も東もわからない状態から、少しずつだが方向感覚がついてくる。
 その面白さ、つまり自分の理解が多少でも進んでいく楽しさを知ると、もうやめられない。



こうした感覚は、野鳥観察でも同じもの。
おそらく生物相手の趣味を持っている人の多くは、同感できるのではないだろうか。

養老氏のファンという層がどれだけいるか不明だが、
長年生きもの相手の趣味を貫いてきた方のエッセイとして、やはり説得力がある。

さて、本書では、蝶類研究者の先達として、
世界のアゲハチョウやアジア産チョウ類の生活史解明に生涯を捧げた五十嵐邁氏が紹介されている。
例えばテングアゲハについて、五十嵐氏は1986.5~8にかけてインド北東部ダージリンのタイガー・ヒルに滞在し、
このチョウの幼虫を飼育して羽化させた。だが、それに至るまで、生息地の発見等のために24年の歳月を要している。

五十嵐氏は日本鱗翅学会の和文誌編集委員長などを務めた後、
日本蝶類学会の発起人・初代会長も務めるなど、日本、そしてアジアの蝶類研究の礎を気づいた方だ。
また同時に、「美保関事件」として知られる、大日本帝国海軍の夜間演習中に起こった多重衝突事故で沈没した駆逐艦「蕨」の館長の遺族でもある。

五十嵐氏自身の蝶類研究の記録としては、「アゲハ蝶の白地図」(レビューはこちら)があり、
一方、美保関事件についても「美保関のかなたへ 日本海軍特秘遭難事件 (角川ソフィア文庫)」(レビューはこちら)を記している。

特に前掲の「アゲハ蝶の白地図」の旅は、本書の旅と重複する部分もある。あわせて読むと興味深い。




関連記事
 このエントリーをはてなブックマークに追加

category: 昆虫

thread: 読んだ本の紹介 - janre: 本・雑誌

tb: 0   cm: 0

コメント

コメントの投稿

Secret

トラックバック

トラックバックURL
→http://birdbookreading.blog.fc2.com/tb.php/575-37caab74
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

中の人

アクセス

RSSリンクの表示

最新記事

カレンダー

アクセスランキング

月別アーカイブ

ブロとも申請フォーム